「若さま侍捕物帖 鮮血の人魚」
「若さま侍捕物帖 鮮血の人魚」
(1957・9・29 東映京都作品)
原作・城昌幸(「人魚鬼」講談社)
脚色・村松道平
監督・深田金之助
<配 役>
若 さ ま …大川 橋蔵
お い と …星 美智子
遠州屋小吉 …星 十郎
お さ い …千原しのぶ
うつぼ姫 …大川 恵子
徳川治行 …伏見扇太郎
江川了巴 …進藤英太郎
ものがたり
両国の川開きの夜、花火師六兵衛が船上で殺害された。あたりには無気味な人魚の姿が。次々に起きる殺人事件・・・
六兵衛の使う強力な火薬に目をつけた廻船問屋利倉屋。尾張屋敷の不可解な動き。
ある日、尾張屋敷から重臣・青山玄蕃、了巴、うつぼ姫が旅立っていく。それを追う若さま、おさい、利倉屋一味。事件は江戸から尾張、人魚島へ・・・
開放感とエロチシズム
この『鮮血の人魚』は「若さま侍」シリーズ第6作目。シリーズ初のカラー作品で登場です。監督は若さま第1作から手がけている深田金之助氏。おいと役は星美智子さん、遠州屋小吉に星十郎さんとお馴染みの顔ぶれ。若さまの身辺を探るスリのおさいに千原しのぶさん、うつぼ姫にまだ新人の大川恵子さんが扮しています。
軽快な「花の大江戸八百八町 おいら天下の若さまだ」のメロディーで始まるのはいつもどおり。今回の若さまは江戸市中から離れ、遠く尾張まで事件を追い、趣向を変えた開放感溢れる作品となっています。
事件がおきるたびに現れる無気味な人魚たち。命じられた相手を殺すよう指示されているのか、海中での攻撃的な動き。上半身が女性の裸身で、下半身が魚の人魚の姿は、当時としては最高のエロチシズムを追求した映像表現といえるでしょう。サービス満点の娯楽時代劇です。
童心にかえってヤンヤヤンヤ
事件は遥か離れた小島から逃亡しようとした人足が人魚に襲われ、助けられたものの、「人魚」と一言残して死んでしまうところから始まります。
川開きの夜、花火を持ってきた六兵衛が打ち上げが終わり、そそくさと帰っていった小舟の中で死体となって発見。次々に起きる殺人事件・・・どうやら火薬にまつわる殺しらしい。怪しいのは廻船問屋利倉屋と尾張藩の侍たち。
最初から犯人らしい人物がわかってしまい、謎解きの妙味こそありませんが、その分、颯爽とした若さまを堪能できるのが、「若さま」シリーズ前期作品の特徴で、深田監督も心得たもの。若さまの魅力を十二分に見せてくれます。
とにかく、橋蔵さんの若さま、綺麗で颯爽としていて、格好がいいのです。着流し姿も美しく、粋でちょっとくだけていて、気品があるのに庶民的。強くて優しくて、敵が何人いようと決して怖気ません。バッタバッタと相手をやっつけ、極めつけの一文字崩しがでたら、思わず拍手。心躍る瞬間です。
映画館に通い詰めた子供の頃の橋蔵さんは素敵なお兄さま。50年後、あらためて見てみると、なんとまあ、橋蔵さんの若くて可愛らしいこと。デビューして29作目のこの作品、立ち回りもタイミングが外れていたりして、何とも危なっかしいこと頻りなのですが、それでも惹きつけられて、夢中になって見てしまう私がいるのです。童心にかえってヤンヤヤンヤ。やっぱりいいなあ。
この橋蔵さんの魅力って一体何なのだろう、それがスターと言われる人のオーラなのだろうか、本当に不思議です。
夜空を彩る花火の競演
ところで、両国の川開きに打ち上げられる花火。花火師といえば「鍵屋」と「玉屋」。花火が上がるたびに、「鍵屋あ」「玉屋あ」の掛け声がかかり、夏の風物詩となっています。
初代鍵屋弥兵衛は大和国篠原(奈良県吉野郡)の出身で、明暦年間(1655-57)上京。万治2年(1659)、日本橋横山町に店を構え、幕府の御用達として急成長を遂げました。
正徳元年(1711)、家宣の命で、隅田川で初めて花火流星が打ち上げられ、享保17年(1732)には江戸にコレラが流行。慰霊、悪疫退散のため、両国川下で水神祭が催され、追善供養が営まれました。それがきっかけとなって、翌年から5月28日から3ヵ月間、納涼舟の舟遊びとともに6代目鍵屋によって、毎夜花火が打ち上げられるようになったということです。
狐がくわえる鍵と玉
文化7年(1810)、鍵屋の番頭清七が暖簾分けし、玉屋市兵衛と名乗り、両国広小路吉川町に分家を出しました。鍵屋は稲荷を守護神としていて、その祠前の狐が、1匹は鍵をもう1匹は擬宝珠(ぎぼし)と呼ばれる玉をくわえていたことから、玉屋を名乗るようになったといわれています。(『鍵屋伝書』)
両国橋の上流を玉屋、下流を鍵屋が受け持ち、技を競い合いましたが、天保14年(1843)4月17日、玉屋は失火により全焼、町並みを半丁ほど焼けつくすという大火事を引き起こしてしまいました。たまたま家慶が日光参拝の前日だったこともあり、江戸払いとなり、2大花火師の競演は30年で終わりとなりました。
両国の花火は浮世絵や川柳にも取り上げられ、「橋の上 玉屋玉屋の声ばかり なぜに鍵屋と言わぬ情(錠)なし」と詠まれ、当時の玉屋の人気のほどがしのばれます。
玉屋は30年で終わりを告げましたが、鍵屋は「宗家花火鍵屋」として、現代も続いています。
大輪の花のように丸く広がる花火は明治7年、鍵屋10代目が開発。
したがって、若さまやおいとちゃんが見上げるような花火は、当時は打ち上げられてはいませんでした。花火の主流は流星と呼ばれる、弧を描くようなものだったようです。
とはいえ、映画ではやはり夜空に開く大輪の花火の方が見ていて楽しいですね。
今回も若さまが大活躍する『鮮血の人魚』、文句なく素敵な若さまの粋な江戸姿をお楽しみください。
(文責・古狸奈 2013・6・24)
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