「用心棒市場」
「用心棒市場」
(1963・6・22 東映京都作品)
脚本・結束信二
監督・小沢茂弘
<配 役>
あかねの弥之吉 ・・・大川 橋蔵
はやての新吉 ・・・松方 弘樹
千石屋十兵衛 ・・・高田 浩吉
矢車の清吉・・・ミッキー・カーチス
見附の寅五郎 ・・・田崎 潤
暴れ馬の丑松 ・・・阿部九州男
山猫の仙蔵 ・・・多々良 純
お き ぬ ・・・北条きく子
お 加 代 ・・・三島ゆり子
お 澄 ・・・四方 晴美
ものがたり
はやての新吉は自分より腕の立つあかねの弥之吉が気に入らない。何かにつけて張り合っている。
一方、隣りの町では、島送りになっていた見附の寅五郎がご赦免となり、子分2人を連れて現われたので戦々恐々。捕らえられた仕返しに何をされるか、わからないからだ。
寅五郎たちの悪行はエスカレートするばかり。ならず者追放の助勢を頼んだ浪人も寅五郎に歯が立たず、退散する始末。その浪人から弥之吉の噂を聞いたことから、お加代とおきぬが弥之吉をさがしに隣り町へと赴いたのだが・・・
格好よさに満足、少ない出番に不満足
「あいつ、また格好つけやがって」
最後に新吉が傷の手当てを受けながら悔しそうに言う台詞・・・
実際、この作品の橋蔵さん扮するあかねの弥之吉は実に格好いいのです。美男で強くて、全体の空気や立場をわきまえていて、沈着冷静。その上情にも厚い。おそらく橋蔵さんの全作品の中で、もっとも颯爽として格好いい主人公のひとりではないかと思います。
ところが、物語の前半はほとんど出てきません。たまたま客人として泊まりあわせた貸元のところに殴り込みがあり、松方弘樹さんの新吉が弥之吉を意識し始める経緯が描かれた後は、島帰りの寅五郎たちの悪行ぶりと、その対処に苦慮する町の人々の様子が描かれていきます。
ならず者を追い出そうと、当てにした相撲取りの番付破りも浪人も結局は役に立たず、寅五郎たちの悪行は強請りたかりから婦女暴行、ついには造り酒屋の株を狙うところまでエスカレート。
一方、それを阻止しようとする町の人々は、千石屋十兵衛と目明し清吉を中心に進められていきます。対照的なふたり。高田浩吉さんの千石屋十兵衛の確固たる意思と冷静さ。目明しの清吉は寅五郎を召捕った先代と違ってまだ頼りなく、おろおろするばかり。妹のお加代の方がしっかり者。
さらに、寄合いでの寅五郎と千石屋十兵衛との対決はどちらも貫禄で圧巻。緊迫した空気が漂います。
次から次と悪党どもの横暴は続き、ハラハラさせられる展開で観客は画面に釘づけ。ところが肝心の橋蔵さんは時たま顔を出すだけで、前半はほとんど出てこないのです。まだかまだかと、待ちくたびれて、常に橋蔵さんの顔さえ見られれば満足のファンとしてはお預け状態が続きます。それが、強いて言えば不満足。
見どころは悪党ぶり
とはいえ、この作品の見どころは島帰りの3人の悪党ぶりでしょう。
まともな道に進んでも成功間違いなしの、知恵と才覚と度胸を持ち合わせている田崎潤さんの見附の寅五郎。だからこそ敵に回したら恐ろしい大親分の貫禄。橋蔵さんと田崎さんの共演は『若君千両傘』や『恋山彦』などがありますが、一騎打ち対決は『紅顔の密使』以来で、今回も緊迫した対決場面を見せてくれます。
阿部九州男さんの暴れ馬の丑松と、多々良純さんの山猫の仙蔵のこれまた憎たらしいこと。これ以上の悪い奴はいないというほどの悪党ぶりで、こんなごろつきどもに凄まれたら誰しも震え上がってしまうでしょう。だからこそおきぬの「町がめちゃめちゃになってしまいます」という弥之吉への懇願も真実味が出てこようというものです。
死罪の次に重い島流し
江戸時代の刑罰は武士のみに科せられる切腹や改易、蟄居、閉門などは別として、庶民の場合、死罪の次に重いのが遠島、島流しでした。『御定書百箇条』によると、人殺しの指図・手引き・手伝い、寺持僧侶の女犯、客を溺死させた舟主、幼女への強姦・傷害、イカサマ博打、大八車で怪我を負わせた者などが遠島となりました。
江戸では大島や八丈島など伊豆七島、京、大阪など西国では薩摩、五島列島、天草、隠岐に流されたようです。
一度流されると原則として期限はなく、恩赦などの赦免がない限り、一生島で生活しなければなりませんでした。自分で食い扶持がかせげたり、仕送りなどがある裕福な者は小屋を借り、汐汲み女をやとったりして、やがては結婚する者もいたようです。流人でも家族を持つと気持ちが優しくなるので、島民たちは彼らの結婚を歓迎したとか。しかし、自給自足が原則のため、中には、ろくに食べることも出来ず、餓死する者もいたようです。
デビュー当時は現代劇
はやての新吉の松方弘樹さん。若くて、血の気が多くて、単純で、弥之吉と張り合っては事件を巻き起こし、ストーリーを盛り上げています。
このころの松方さんは時代劇専門でしたが、デビュー当時は「17歳の逆襲」シリーズで、現代劇に出演していらっしゃいました。たまたまデビュー2作目で、1960年8月に第二東映で封切りされた『17歳の逆襲 向こう見ずの3日間』を観ていたので、現代劇をやらなくなったのは惜しいように感じたものでした。その後、時代劇、現代劇関係なく幅広く活躍されていることは周知の通りです。
心和む童唄
お澄役の四方晴美ちゃん。安井昌二さんのお嬢さんです。
お澄ちゃんを相手に橋蔵さんが唄う童唄。
「オットンセオットンセ めんこいめんこいでよ 嫁にほしやとのぞまれて 西も東も知らぬせで ベコの背中でイヤイヤ オットンセオットンセ」
指で調子を取りながら唄う橋蔵さんの童唄。人柄が滲み出るような温かい唄声で、次に来る緊迫した場面と対照的。心和む場面です。
一方、酒を呑みながら唄う寅五郎の節回しは哀愁を帯びていて、悪の道に進まなければならなかった彼の暗い過去を映し出しているかのようです。
蔵出しのときのバックコーラスといい、挿入歌が効果的に使われています。
見ごたえある一騎打ち対決
クライマックスは最後の弥之吉と寅五郎の対決。鉄砲を持つ敵との緻密な応戦が見事です。持久戦に持ち込み、相手を追い込む心理作戦。苛立ちがつのっていく寅五郎の動き。ピンと張り詰めた緊張感。観客も目を離せません。
待ちきれず飛び出してきた寅五郎に、物音をさせ、わざと発砲させたあと、相手が弾を込める隙に一気に斬りこんで行く弥之吉。心憎いほど冷静な作戦の勝利です。
全てが解決し、堅気の町にヤクザはいらない、と去って行く弥之吉。颯爽とした中に人恋うる一抹の淋しさが・・・
(文責・古狸奈 2012・7・29)
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