「若さま侍捕物帖」
「若さま侍捕物帖」
(1960・12・27 東映京都作品)
原作・城 昌幸
脚色・結束信二
監督・佐々木康
<配 役>
若 さ ま …大川 橋蔵
遠州屋小吉 …本郷 秀雄
佐々島俊蔵 …千秋 実
お い と …桜町 弘子
お ち か …三田 佳子
お 澄 …花園ひろみ
月 美 香 …藤田 佳子
英 明 院 …花柳 小菊
堀田加賀守 …坂東好太郎
鈴木 采女 …山形 勲
ものがたり
おとそ気分の松の内、酒問屋伊勢屋の清酒で毒見役が命を失い、見廻り役も何者かに殺された。
その科で一門は遠島、店は取り潰しと決まり、伊勢屋周兵衛は病に臥し死んでしまう。
喜仙の娘おいとや矢場のお澄に取り囲まれながら、一見気ままに見える若さまの捜査は次第に事件の核心に迫っていく・・・
お正月作品として
橋蔵さんの当り役「若さま侍」シリーズ第8作目の作品です。デビュー3作目に「若さま」を演じて以来、橋蔵さん以上の適役はいないと言われシリーズ化。全10本の「若さま侍捕物帖」が製作されました。
この作品は61年のお正月に向けて封切られたもので、正月気分もふんだんに盛られ、華やかで明るい物語となっています。事件の謎解きよりは颯爽とした若さまの活躍ぶりが中心で、最初から犯人がわかっていて、それらの悪人どもを若さまがどのようにやっつけるかが映画の見どころとなっています。
橋蔵若さまの魅力満載
若さまの魅力は高貴な育ちの気品を漂わせながら、それでいて洒脱で、気さくで、人情にも通じている庶民性があることでしょう。将軍家に繋がる本来なら近寄りがたい身分でありながら、好奇心旺盛で、誰とでもべらんめえ口調で話しかけ、気取りがなく、茶目っ気ぶりも発揮。湯屋で町人たちの話を聞いている若さま。手元のお銚子に刺されたおでん種の案山子。思わず笑ってしまいます。
おまけに美男で剣も強いときていますから、娘たちに騒がれない道理はなく、桜町弘子さんのおいとと花園ひろみさんのお澄との鞘当てがあったり、伊勢屋の娘おちかの三田佳子さん、琉球一座の月美香の藤田佳子さんと、若さまを取り囲む女性陣も実に華やかです。
そうした若さまを橋蔵さんは楽しそうに演じていて、若さまが橋蔵さんか、橋蔵さんが若さまか、区別がつかないほどの当り役。橋蔵若さまの魅力が満載の作品です。
山形勲さんと三島雅夫さんは善役も悪役もこなせる貴重な俳優さんですが、今回はおふたりとも奸智にたけた悪役ぶりを発揮しています。そのさらに上をいく悪い奴が、権力を笠に着た坂東好太郎さんの老中、堀田加賀守という図式です。
遠州屋小吉は今回は本郷秀雄さん。千秋実さんの佐々島旦那とのコンビで話が進められていきます。
立ち回りに衣裳に琉球一座
娯楽作品の醍醐味、①立ち回り、②衣裳、③ショー的要素、の3点もふんだんに取り入れられています。
立ち回りはごろつきにからまれて、矢場「お若い矢」の前で、扇子だけで相手をやりこめるスピーディで軽快な立ち回りから、最後に一文字崩しが登場し、悪党一味を成敗する颯爽とした立ち回りまで存分に楽しめます。返り血を浴びることもなく、ただただ美しい若さまを満喫でき、ファンにとってはこれ以上の作品はないでしょう。
衣裳も場面ごとに変わり、若さまの着流し姿を堪能できますし、ショー的要素を取り入れることを得意とする佐々木監督によって、各場面にはめこまれた挿入歌のほか、琉球一座の舞台が繰り広げられます。一座の歌姫は奈美役のコロンビアレコードの岡田ゆり子さん。沖縄返還前の内地に住む日本人にとって、沖縄はまだ遠い外国と同じで、艶やかで華やかな異国情緒たっぷりの歌と踊りに目を見張ったものでした。
2大スター主演作品で
毎年、正月にはオールスター作品が封切られるのが恒例でしたが、この年は第1週が『若さま侍捕物帖』と『東海の顔役』、第2週が『新吾二十番勝負』と『家光と彦左と一心太助』で、橋蔵さんと錦之助さんそれぞれの主演作の2本立て。オールスター作品ではなかったにもかかわらず、2億円前後の配収を得たということです。
テレビの普及や観光や行楽、登山、スキーなどのレジャーブームの影響により、映画は57年をピークに、59年には観客が減り始め、斜陽化が始まりました。そうした中で、ただ東映のみが順調に収益をあげ、2位以下を引き離していた、と『東映10年史』には記されています。それでも映画の斜陽化の流れを食い止めることはできず、この「若さま侍」のような明るい健康的な時代劇は次第に姿を消していくのです。
福本さんが語る橋蔵さんの殺陣
日本一の斬られ役・福本清三さんの『どこかで誰かが見ていてくれる』の中で、福本さんは橋蔵さんの立ち回りについて、以下のように語っています。ちょっと長くなりますが引用してみましょう。
大川橋蔵さんですか? この人の立ち回りもよかったですよ。何がよかったといって、殺陣師さんと楽屋で相談するんですよ。いわゆる「口立て」ですわ。
「ここで相手がこうかかって来るから、こう斬って、次に振り向きざまにこう斬って、ここで飛んで、ズバッ・・・」
とか、話しているだけで、「わかった」って言って、セットに入って、すぐに本番になって、華麗に立ち回りをその通りにやってしまうんやから。
よほど立ち回りが上手でないと、10種類ぐらいある殺陣を、頭のなかだけじゃ理解できませんよ。ですから、大川橋蔵さんの『新吾十番勝負』やら『若さま侍捕物帖』での立ち回りは、錦兄のような豪快さはありませんでしたけど、身のこなしが優雅で、踊り的というか、とても華やかだった印象がありますわ。・・・
日本一の斬られ役といわれる福本氏が認める橋蔵さんの華麗な立ち回り。ファンが魅了されないわけはありませんよね。
(文責・古狸奈 2012・1・18)
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