「江戸っ子肌」
「江戸っ子肌」
(1961・2・7 東映京都作品)
原作・邦枝完二(「喧嘩鳶」)
脚本・結束信二
監督・マキノ雅弘
<配 役>
吉五郎 …大川 橋蔵
次郎吉 …黒川弥太郎
おもん …桜町 弘子
小いな …淡島 千景
中原扇十郎…山形 勲
おりん …千原しのぶ
ものがたり
度胸と男前で売り出していた加賀鳶の小頭・吉五郎に惚れている芸者小いな。兄の扇十郎は喧嘩揉めごと仲裁で呑み代を稼ぐ貧乏御家人だ。
ある日、吉五郎は向井佐太夫にさらわれた娘、おもんを助けたが、は組の纏持ち次郎吉の妹と知って困惑する。加賀鳶とは組は祖父の代からの犬猿の仲だった。
吉五郎とおもんは互いにひかれあうのだが・・・
「町火消」と「大名火消」
火事の多い江戸は享保の改革で、大岡忠相によって町奉行の指揮下に「町火消」が整備され、隅田川から西をいろは47組、東の本所、深川を16組に分けて、消火活動に当たらせるようになりました。
一方、大名の屋敷や武家町を火災から守るために、幕府直轄の旗本で構成された「定火消」、大名それぞれが抱える「大名火消」(各自火消)がいました。中でも加賀鳶は加賀藩前田家江戸藩邸が抱えていた火消人足のことで、派手な衣裳と独自の髪型で人気が高く、加賀鳶の行列は歌川豊国、歌川国芳などによって、浮世絵などにも描かれ、歌舞伎にも河竹黙阿弥作「盲長屋梅加賀鳶」で取り上げられています。
加賀百万石の誇りと火消特有の荒っぽい気性から、町家と大名屋敷が隣接する地域では、火事のたびに威勢のいい町火消との衝突が絶えませんでした。組ごとの対抗意識もあり、消口争いから喧嘩となり、まさしく「火事と喧嘩は江戸の華」だったのです。(Wikipedia)
火消役は3年ぶり
橋蔵さんは粋でいなせで喧嘩にも強い、加賀鳶の小頭・吉五郎役で登場です。火消役は『花吹雪鉄火纏』より3年ぶり。背中には金太郎の刺青、双肌脱いで江戸弁の歯切れのいい啖呵をきるところなど、小いな姐さんが惚れるのも無理もない格好のよさ。男の色気が立ちのぼります。
この作品では、橋蔵さん、珍しく纏は振りません。火事場の場面では、焼け崩れそうな屋根の上で、纏を振る次郎吉の足場に竜吐水をかけ、敵対するは組の纏持ちを救うのです。そのことでおもんとのことが知れ、窮地に陥ることになるのですが・・・
当時の消火の方法は隣接する建物を鳶口などで壊して、類焼を防ぐやり方。破壊=消火ですから気性も荒っぽくなろうというもの。喧嘩の時には武器となってしまうため、鳶口の長さも制限されるようになったとか。高所での作業が得意な彼らは、普段は建設現場の足場を組むといった仕事についていました。おもんと次郎吉との会話の場面に普段の生活が覗かれます。
苦しい恋の胸の内
おもんに惹かれながらも、周囲から歓迎されない恋に悩む吉五郎。いつもモテモテの役が多い橋蔵さんが、この作品では苦しい恋の胸の内を語っています。
その話し相手になる堺駿二さん。堺さんが現れると、画面が和みますね。
ちなみに堺さんは橋蔵さんがデビューしてから北白川の新居に移られるまで、橋蔵さんが宿舎としていた京都麩屋町の吉乃屋旅館に滞在していた間柄。朝聞こえてくる橋蔵さんの歌声で、その日がロケかセットかわかったとか。共演作品も多く、呼吸もぴたりとあって、絶妙なコンビです。
名脇役のキセル
粋で気風のいい淡島千景さんの小いな、純真でけなげな桜町弘子さんのおもん、年増の落ち着きをみせる千原しのぶさんのおりんと豪華な女性陣。おもんの気持ちを知って、自分も吉五郎に惚れているのに一肌脱ぐ小いな。やきもちを焼いて吉五郎から取り上げた女もののキセルをおもんに譲る女心が泣かせます。小道具ながら、名脇役としていきるキセルです。
淡島千景さんとは『雪之丞変化』以来の2度目の共演です。前回のお初同様、今回の小いなも粋で艶やかで、何とも言えない色気があって、大輪の花が咲いたよう。文句なく素敵です。
一方の桜町弘子さんのおもんは健気で一途な町娘。小いなとは対照的に描かれています。
間違いだらけのあらすじ
最後に一言。
あらすじや配役など、東映ビデオの箱書きや「キネマ旬報データベース」、「Goo映画」などを、参考にさせていただいているのですが、今回はがっかり。どれもあらすじが実際の映画と大幅に違っているのです。
往年の雑誌、『平凡』や『明星』、『近代映画』などの映画紹介欄は、事前に宣伝用のチラシ作成のため、流布されたものが使われることから、制作の最終段階になって、上映時間の関係その他で、カットされたり、若干の違いはままあることですが、今回はちょっと多すぎるようで・・・橋蔵さんは最後に纏を振ってはいないのです。
初出の映画紹介欄ならともかく、その後何年も経っていて、再販もしくは再編集時に訂正も可能だと思うのに、みな安易に転記している感じで、全くもってお粗末としかいいようがありません。
一般的に映画評論などは発表されると、周囲は何となく納得して、そのまま定着していくものですが、こうした基本的なデータさえあいまいだということは、何ごとも鵜呑みにせず、各人の感性と判断で良し悪しをきめる必要があると思ってしまいました。
常々感じていることなのですが、橋蔵さんの映画のよさは評論家などよりも、何度も繰り返し見ているファンの方がずっとよくわかっているのではないかと・・・系統立てて説明する術を知らないだけで・・・
(文責・古狸奈 2015・3・1)
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