「喧嘩道中」
「喧嘩道中」
(1957・5・12 東映京都作品)
脚本・比佐芳武
監督・佐々木康
<配 役>
草間の半次郎 …大川 橋蔵
お た か …千原しのぶ
お か つ …吉野登洋子
お し ん …花村 菊江
戸倉屋彦右衛門 …高堂 国典
彦 作 …立松 晃
呑みこみの金介 …徳大寺 伸
お 雪 …丘 さとみ
ものがたり
豪商戸倉屋彦兵衛の娘、おたかを松平伯耆守の部屋づとめに送りこんで、己の栄華をはかろうとした彦作だったが、婚礼の晩、おたかは姿を消してしまう。おたかに500両の懸賞金がかけられ、追手が差し向けられた。
一方、妹お雪を捜して旅する半次郎は、おたかの兄彦作がお雪を捨てた男だと知る。やっと会えたときには宿場女郎として変わり果て、病にふせるお雪の姿だった。お雪は「彦作が懐かしい」と言って死んでしまう。
橋蔵さん初の股旅物
この『喧嘩道中』は橋蔵さんが映画デビューしてから24作目の作品。それまでは若さまのような、もともとは身分や由緒ある家柄の出身という役どころが多かったのですが、この作品は初の股旅物で、草間の半次郎という若さあふれる旅烏を演じています。
その後、「草間の半次郎」はシリーズとして4本映画化されましたが、主人公の名前は同じでも全て独立した物語になっています。
おたかと半次郎
この作品では婚礼の場から逃げ出してしまった豪商の娘・おたかと、妹を探して旅に出ている半次郎が知り合い、お互い憎からず思いながらも、おたかの兄が半次郎の妹を捨てた相手という皮肉な運命。おたかにかけられた懸賞金目当てに暗躍する小悪党たち。恋の成り行きと追手の危険が迫るおたかの身の上が物語の大枠となっています。
見どころはやはり、半次郎に一目惚れしたおたかと半次郎との絡みでしょう。豪商の娘らしい気位と、それでいて酒の勢いで半次郎に迫るおたかの大胆な行為。酒を飲んでいるということで拒絶する半次郎。このあたりに、映画が製作された当時の男と女の理想像や恋愛観が見え隠れしています。
おまけにおたかの兄が、妹を捨てた彦作と知り、頑なに一線を引こうとする半次郎の思い。それに耐えなければならないおたか。ふたりの心の葛藤が主なテーマとなっています。
妹が死んでしまい、その恨みが最高潮に達したとき、お雪の彦作への思いを察し、振り上げた長脇差を鞘におさめる半次郎。後半の山場です。
素敵な共演者
千原しのぶさんのおたか、鳥追い姿でも凛とした豪商の娘の気品が漂っていました。
徳大寺伸さんの呑みこみの金介、小悪党だが憎めない、物語の牽引役です。
高堂国典さんの戸倉屋彦右衛門、おたかの味方のご隠居さん。粋で頼もしい存在でした。
丘さとみさんのお雪、この作品では丘さんはまだ新人で、臨終の場面だけの出演ですが、その後、東映を代表する女優として成長していきます。
もちろん、半次郎役の橋蔵さんもこの当時は国民的アイドルスター。爆発的な人気が渦巻く中で、橋蔵さんと同い年の兄を持つ私は、橋蔵さんに素敵なお兄さまとしての憧れを膨らませていました。
艶やかな鳥追い
半次郎の歩く姿にかぶさりながら流れる、主題歌「三味線道中」を歌っているのは、コロンビアレコードの花村菊江さん。普通歌手の映画出演は鳥追いか、新内流しの扮装で歌うだけというのが多いのですが、この作品では歌だけでなく、おたかと旅する鳥追い姿の三人娘のひとりとして出演しています。
ところで、鳥追いは門付け芸のひとつで、江戸中期以降、新年の2日から15日ごろまで、女太夫たちが仕立て下ろしの着物に日和下駄、編笠姿で三味線などを弾きながら、鳥追い歌を歌って家々を回ったもので、正月を過ぎると菅笠に変り、鳥追いとは言わないのだとか。映画などで正月に限らず鳥追いが出てくるのは、化粧をし、艶やかな着物姿の鳥追いは綺麗で色っぽく、絵になることから用いられ、史実としては間違いだそうです。
鳥追いの艶やかな姿は人気を呼び、江戸から地方に伝わり、現在も各地の盆踊りなどに編笠の鳥追い姿で踊る形で残っているということです。
しんとんとろりと良い男
さて、花村菊江さんは1938年5月20日生まれ。1955年、コロンビアレコードからデビュー。1960年、「潮来花嫁さん」が大ヒットし、NHK紅白歌合戦にも2年連続で出場しました。
2005年には潮来市前川あやめ園内に「潮来花嫁さん」の記念碑が建てられています。
2011年6月12日、潮来市で東日本大震災チャリティーショーを開催。「潮来花嫁さん」や「潮来の雨」などを披露し、健在ぶりをみせていましたが、その3ヵ月後の9月29日、クモ膜下出血がもとで亡くなりました。享年73。
鈴をころがしたような歌声という形容がぴったりの、当時を代表する歌手のひとりです。
佐々木監督は映画の中に歌を取り込むことの得意な監督で、『喧嘩道中』では石本美由紀氏作詞、万城目正氏作曲の「三味線道中」と「いろは笠」の2曲が挿入されています。
特に、「しんとんとろりと良い男 とことろりことんとんとん」は実に調子のよいメロディー。映画が終っても知らず知らず、口ずさんでしまいますね。
(文責・古狸奈 2011・10・23)
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