「水戸黄門」1957
「水戸黄門」
(1957・8・11 東映京都作品)
原作・直木三十五
脚色・比佐芳武
監督・佐々木康
<配 役>
水戸黄門 …月形龍之介
佐々木助三郎 …東千代之介
渥美格之進 …大川 橋蔵
宇 之 吉 …中村錦之助
野中主水 …大友柳太朗
関根弥次郎 …市川右太衛門
将軍綱吉 …片岡千恵蔵
(その他東映オールスター)
ものがたり
人間よりも犬が大事という「生類憐み」のお布令を意見して、将軍綱吉にやめさせた諸国漫遊中の水戸黄門は助さん、格さんをお供に江戸入り。そこで図らずも高田藩のお家騒動を知ることとなった。
実子を藩主と養子縁組させ、お家乗っ取りを謀る筆頭家老小栗美作一派とそれを阻止しようとする二番家老萩田主馬と剣客弥次郎。助さん、格さんから情報を得た水戸黄門は早速事件解決に動き出すのだった・・・
お犬さまとお家騒動
月形龍之介さんの映画生活38年を記念して製作された、東映京都撮影所の主演級スターが総出演する豪華作品です。東映スコープ。総天然色のタイトルも懐かしいイーストマン 東映カラー。
当時の映画は普通モノクロ。カラー作品はオールスターか、特別の作品に限られていました。カラーになった映画を初めて見たときの高揚感が忘れられないものとなっています。
脚色は比佐芳武氏。歴史的史実を物語に組み入れる手法は見事で多くの作品を生み出しています。『水戸黄門』では「生類憐みの令」で、お犬さまに苦しめられる庶民の暮らしを見て、将軍を戒める前半と、高田家のお家騒動の解決を図る後半の2部構成となっています。越後高田藩のお家騒動も、家綱の時代、決着していたものを、綱吉が再審査したとされる話をもとにしていることは明らかです。当時の脚本家が1本の時代劇映画の基礎となる事象に関しての幅広い博識ぶりと、史実と虚構をうまく混ぜ合わせて物語を作り出す手腕に驚きます。
天皇と称された脚本家
比佐芳武氏は1904年1月4日生まれ。マキノ正博監督の最も苦しんだ時期に協力した盟友といわれ、本名、武久猛。1931年のマキノ正博監督の『浪人太平記』でデビュー。1943年、『成吉思汗』を手がけています。
戦後は1946年の『七つの顔』で復帰。その後は『任侠清水港』、『水戸黄門』(57)、『任侠東海道』、『旗本退屈男』(58)、『忠臣蔵 桜花の巻/菊花の巻』(59)『任侠中山道』(60)、など、東映オールスター作品のほとんどを脚色。橋蔵さんの出演作品では「草間の半次郎」シリーズの『喧嘩道中』(57)、『旅笠道中』(58)、『おしどり道中』(59)、『霧の中の渡り鳥』(60)の4作品のほか、『旗本退屈男 謎の決闘状』(55)、『大江戸七人衆』、『修羅八荒』、『若さま侍捕物帖 紅鶴屋敷』(58)、『恋山彦』(59)、『幕末の動乱』(60)、『赤い影法師』(61)、『血煙り笠』(62)、『人斬り笠』(64)、『任侠木曽鴉』、『バラケツ勝負』(65)など21作品に上っています。
これだけの実力者ですから、撮影所内での影響力も強く、結束信二氏は「周囲は天皇と称して畏敬していた」と1986年2月13日発行のキネマ旬報増刊『映画40年全記録』の中で記しています。東映時代劇の黄金時代を築いた立役者のひとりと言えるでしょう。1981年12月17日、死去。
名君か犬公方か
将軍綱吉を片岡千恵蔵さんが演じています。頭脳明晰な将軍として描かれていますが、この徳川綱吉ほど名君なのか、犬公方なのか実像のわかりにくい将軍もいないでしょう。
基本的には文治政治を進め、治世の前半は善政を行い、「天和の治」と称えらえています。しかし、後半は側用人の柳沢吉保らを重用して、「生類憐みの令」をはじめとする悪政を行ったとして、評価が下がってしまいました。近年、歴史が見直されてきており、岬龍一郎氏は『日本人のDNAを創った20人』(育鵬社)で、「生類憐みの令」は、当時、病人や牛馬などを山野に捨てたりする風習があり、人はもとより馬などをも慈しむようにとのことから殺生を戒めたものとの見解を述べています。片岡千恵蔵さんはその説通りの名君ぶりを見せています。
黄門さまはやはり月形さん
オールスター映画となると、スターたちのキャラクターに合わせた配役となり、似通った役回りが多くなっていきますが、それだけに楽しく安心してみられます。錦之助さんと千原しのぶさんのスリのコンビ。大友柳太朗さんと長谷川裕見子さん。呼吸もぴったりですね。橋蔵さんは格さん役で最後は槍での立ち回りを見せてくれました。
月形龍之介さんの黄門さまはやはり貫録十分。テレビ映画の黄門さまがより庶民的だったのに比べ、気品と重厚さが漂い、今でも黄門さまは月形龍之介さんと思っている私です。
(文責・古狸奈 2015・7・10)
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