「新吾二十番勝負」第2部
「新吾二十番勝負」第2部
(1961・7・9 東映京都作品)
原作・川口松太郎
脚色・川口松太郎/中山文夫
監督・松田定次
<配 役>
葵 新吾 …大川 橋蔵
甲賀新八郎 …沢村 訥升
由 紀 姫 …丘 さとみ
お 縫 …桜町 弘子
お鯉の方 …長谷川裕見子
白根弥次郎 …平 幹二朗
納富一無斎 …大河内傳次郎
酒井讃岐守 …三島 雅夫
六尺六平太 …千秋 実
真崎庄三郎 …岡田 英次
松平 頼安 …薄田 研二
徳川 吉宗 …大友柳太朗
ものがたり
四国西条の領主、松平頼安の居城にあずけられた新吾をつけ狙う柳生一門。雇われた討手の白根弥次郎と根津儀平に待ち伏せされた新吾は辛くも六平太によって助けられるのだった。
一無斎に人としての道を教えられ、母に会おうという気持ちになった新吾だったが、白根弥次郎が秩父大台ヶ原に乗り込み、庄三郎が重症を負ったことを知る。急遽、馬を走らせる新吾・・・
市場でみつけた「惚れ薬」
この作品は「新吾」シリーズの中で、最も娯楽性に富んだ巻となっています。前半繰り広げられる腰元とのやりとりや由紀姫とお縫との恋の鞘当て、海中での決闘など、本来の剣の道を追い求める新吾の真摯な姿とは別の、ちょっと横道にそれた盛り沢山な内容となっています。
頼安が剣を追い求める新吾に、人としての悦びをと、女に興味を持たせようと、あれこれ画策するのが愉快です。侍女をつけたり、酒に媚薬を混ぜて飲ませようとするのですが、どれも失敗。そのあたりの頼安と家老の描写がおかしく笑ってしまいます。
媚薬といえば、メキシコ市のセントロの市場に、アステカ時代からのインディオに伝えられている漢方薬や薬草を売っているところがあって、癌に効くというガラガラヘビの粉などに混じって、「惚れ薬」が売られていました。白い紙袋にハートの絵が描いてあってまさしく「惚れ薬」。成分は何か、実際効くのかわかりませんが、おそらく精力剤の一種なのでしょう。ただでさえ惚れっぽいメキシコ人に、そのような薬が必要とは思えませんが、恋に情熱的なのはスペイン系だけで、もともとの原住民は実直な民族なのかもしれませんね。
将軍の後継者が住む西の丸
ところで、江戸城には将軍が政務をつかさどる本丸に対して、西の丸は将軍の後継者が住むところとなっていました。他に将軍の別邸である二の丸、三の丸があり、前将軍の側室や世継ぎではない子供たちが暮らしていました。大奥は本丸にも、西の丸にもありました。次期将軍となる継嗣は幼い頃に宮家など、しかるべき筋から正室を迎えることも多く、成人してからは側室を住まわせるため、西の丸にも大奥が必要だったのです。しかし、一般的に大奥という場合は本丸に続く将軍の私空間をさしています。
吉宗には側室須磨(深徳院)を母とする長男・家重(9代将軍)、側室吉牟(本徳院)の次男・宗武(田安徳川家初代)、側室梅(深心院)の三男・源三、四男・宗尹(一橋徳川家初代)、側室久免(覚樹院)の長女・芳姫(正雲院)などがいましたが、ほかにも養子を迎えています。したがって、新吾を眼の敵とする西の丸派は次期将軍・家重を擁する一派ということになります。
9代将軍家重は生来虚弱で、言語は不明瞭、頻尿などの身体障害者でしたが、頭脳は怜悧で、人材登用能力に優れ、強力なリーダーシップを持っていたという説もあります。しかし、一般的には小便公方と揶揄され、暗愚な将軍とされています。家重に将軍職を譲ったのは、長男が跡継ぎとなる鉄則を崩さないためと、10代将軍を聡明な孫の家冶に譲りたかったためといわれ、吉宗は家重が将軍についた後も大御所として君臨しました。
そのような西の丸派にしてみれば、剣が強く人望のある新吾は是が非でも抹殺したい相手。執拗な手段もわかろうというものです。第一部で新吾が禁裏に寄進をした罪をかばって、お鯉の方が音羽村に蟄居してから、西の丸派が静かになった、というのも道理で、物語とはいえ、時代背景に無理はなく、歴史的事実に虚構の人物を組み込んでいく、作家の構成の見事さを感じます。
徹底した汚れぶり
一部、二部を通じて、新吾の最大の敵は白根弥次郎。金と名誉のためなら手段を選ばない卑怯者。舟を沈ませたり、大台ヶ原の道場を焼き払ったり、と全くもって許せない憎っくき悪役です。
白塗りの新吾に対して、これでもかといわんばかりの徹底した汚れぶり。のちの天下の二枚目、平幹二朗さんからは想像もつかないほどの汚さ。当時、幾分ふっくらしてきた橋蔵さんの新吾と弥次郎との対決場面は、弥次郎の方がはるかに強そうで、見ていてハラハラしてしまいます。
ただ、弥次郎は非常にわかりやすい悪役で、人間味が感じられません。同じ天下一の名声を得るため、新吾と対決するにしても、『新吾番外勝負』の内田良平さんの雑賀彦十郎の方は、小貫に惚れたゆえの人間的な弱味が描かれているのですが、弥次郎にはそれがありません。貧しさから性格がゆがめられたとするだけで、単純明快。古典的な敵役といえるでしょう。
平幹二朗さんが橋蔵さんの映画に出演されたのは『新吾二十番勝負』からで、その後、『富士に立つ若武者』、『月形半平太』、『赤い影法師』、『天草四郎時貞』、『血文字屋敷』などで共演されています。
華やかさから寂寥感へ
第二部での見どころのひとつに海中での決闘場面があります。小舟を沈められ、刀を背負って海に飛び込む新吾に、漁師たちが襲いかかります。
窮地を脱して、岩場によじ登る新吾に斬りかかる弥次郎。ふたりの熾烈な闘い。裸身の橋蔵さん、見ていて今でもちょっと眩しく、気恥ずかしい感じがするのは私だけでしょうか。
真崎庄三郎も殺され、道場も焼け落ち、「剣に生きる者の最期を見ておけ」と言って死んでいく弥次郎・・・冒頭の華やかな物語から一転して、暗い寂寥感を残して第二部は幕を閉じていきます。
(文責・古狸奈 2013・3・30)
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