「復讐侠艶録」

 

「復讐侠艶録」

    1956822 東映京都作品)

原作・邦枝完二「怪盗五人女」

脚本・土屋欣三 

監督・小沢茂弘

 

<配 役>

越坂玄次郎  …大友柳太朗

錦(山県大八)…大川 橋蔵

三日月お才  …日高 澄子

文  江   …田代百合子

紅筆おかん  …三笠 博子

牡丹のおみね …赤木 春江

     田沼 意次  …進藤英太郎

ものがたり

 徳川10代将軍家治のころ、勤皇の先駆者、山県大弐が捕らえられ、「入門控」が田沼意次に奪われた。「入門控」には水戸藩士の名前が多く書き連ねられていた。

田沼の悪政に拮抗して立った水戸藩の美丈夫、越坂玄次郎と妹文江。文江は「入門控」を捜すべく、田沼の屋敷に奉公にあがっていた。

一方、山県大弐の一子、大八は追手の目をくらますため、女装して復讐の機会を狙っていた。それに協力するお才ら狐面の女賊一味。

やがて越坂と大八らは目的が同じことを知り、共に協力して田沼打倒を誓うのだった・・・

 

勤皇の先覚者、山県大弐

 この物語の発端となる山県大弐(やまがただいに 17251767)は江戸時代享保から明和にかけて生きた儒学者、思想家で、甲斐生まれ。医術にも優れ、勤皇思想を唱えた先覚者として知られています。小幡藩の内紛に巻きこまれ、謀反の疑いありと密告され、1767年(明和4)、処刑されました。(明和事件)

 著書に『柳子新論』。御霊は山県神社に祀られています。

この作品では大弐の「入門控」に水戸藩士の名が多いことから、「入門控」を取り返そうと、妹文江と共に、大友柳太朗さん扮する越坂玄次郎が活躍します。

 

橋蔵さんの5変化

橋蔵さんの役は大弐の息子、大八。追手の目から逃れるため、さまざまな姿に変装します。盗賊、小姓、娘、若衆、侍と5変化。中でも娘姿は艶やかで、田沼意次が見初めるのも無理もない美しさです。

映画入り10作目で、橋蔵さんは「映画に入ってからずっと男役で、女形の癖を出さないようにしていたのに、今度は女装。女の化け方、忘れてしまった」と笑い、「歌舞伎は男だけだから、女形もいいけれど、映画は女優さんがいるのでやりにくい」と語っていますが、「本物の女性より奇麗だよ」と大友柳太朗さんは絶賛。

夏の最中に、綿入れの衣裳に、白塗りのメーキャップ、汗びっしょりの撮影で、あせもだらけになってしまったとか。

歌舞伎の舞台を連想させる女形の台詞回しと声音。見どころのひとつです。

毎回、違った姿で登場する橋蔵さん。それだけでわくわくしてしまいますね。

 

柳太朗・橋蔵コンビ誕生

 『笛吹若武者』に次いで、大友柳太朗さんと2度目の共演です。

 前回の『笛吹若武者』では共演といっても一谷の合戦場面だけでしたが、今回はバッチリ。重厚な柳太朗さんと華麗な橋蔵さんのコンビが誕生しました。

 その後、『新吾十番勝負』、『丹下左膳』など、柳太朗・橋蔵コンビは多くの傑作を生み出すことになりました。

 私生活でも親しかったようで、橋蔵さんにとって、柳太朗さんは公私共に頼りになる兄貴分でした。

 

豪華絢爛きつねの嫁入り

 狐の面をつけた女賊が暗躍するこの作品は、橋蔵さんの女形も加わって、全篇を通じて艶っぽいのですが、オランダ甲比丹を歓迎しての田沼邸での宴の場面、狐の面をつけた嫁入り行列は豪華絢爛。カラーでないのが残念なくらいです。

 エキストラを総動員しての豪華絢爛の場面は、映画が隆盛に向かっている証しともいえるでしょう。その後、映画全盛期にはますます贅沢に、趣向をこらすようになっていきます。華やかな場面は娯楽時代劇の醍醐味ですね。

 

 

                  (文責・古狸奈 2010522