「新吾十番勝負」第2部

 

「新吾十番勝負」第2部

      (1959819 東映京都作品)

   原作/脚本・川口松太郎 

   監督・小沢茂弘

 

   <配 役>

    葵 新吾  …大川 橋蔵

    お鯉の方  …長谷川裕見子

    真崎庄三郎 …岡田 英次

     梅井 多門 …山形  勲

    お  縫  …大川 恵子

    お  咲  …新珠三千代

    日本駄右衛門…山村  聡

    要  助  …山城 新伍

    武田 一真 …月形龍之介

                     徳川 吉宗 …大友柳太朗

ものがたり

 親子の対面の機会は失ったものの、自由な毎日を過ごす新吾はある日、「徳川の天下が気にくわぬ」と放言する日本駄右衛門に会った。彼は新吾を軟禁して、お鯉の方から大枚の身代金を奪う。「オレの盗みは貧民を救うもの」と駄右衛門は言い、気が狂った水野藩主の落とし子、忠明の姿に、権力のむなしさを感じ、駄右衛門との勝負は戦わずして自分の負け、と新吾は思うのだった。

 秩父に戻った新吾は鹿島神宮祭礼の警護のため、剣術を習いに来ていた佐吉一家の助太刀に鹿島に向かう途中、淀屋の息子要助を助けたことで思わぬ展開が・・・

 鹿島では新吾の働きで、将軍代参のお鯉の方の行列は滞りなく歩を進め、輿の中のお鯉の方と新吾との目と目の一瞬の母子の対面をするのだった。

 一方、要助の手紙を持って現れた武田一真との戦いに敗れた梅井多門は失明、再度比叡山での対決を期するのだったが・・・

 淀屋のお墨付きを狙う奈良屋と大坂城代の陰謀に阻まれ、一真と多門の決戦の場に新吾が駆けつけたときにはすでに遅く、多門の屍を前に、新吾は一真を破ることを心に誓うのだった。

 

2部のみどころ

 第2部は監督が松田定次氏から小沢茂弘氏へ、お縫は病気療養中の桜町弘子さんに代わって、大川恵子さんが演じています。

『新吾十番勝負』のうち3番から5番までの物語が取り上げられ、3番勝負では日本駄右衛門、4番ではやくざ虎松一家と代官、5番では奈良屋と大坂城代が新吾の戦う相手となります。大坂城の石畳の刑場に据え付けられた8尺の巨大な天水桶、新吾が投げこまれるのではないか、とハラハラさせられる場面です。

 第2部では新珠三千代さん扮するお咲とのラブシーンが唯一の濡れ場で、橋蔵さんとは初顔合わせ。本番前は照れくさいと語っていた新珠三千代さんが、川魚料理「船津」のセットで、激しく身を寄せるお咲を堂々と演じ、さすが演技派の女優さん、と橋蔵さんは記しています。

妾の子という暗い宿命を負ったお咲・・・新珠さんの演技は、いつも目にする東映の女優さんとは違った独特の雰囲気があって、こんな女優さんがいるのか、と子供ながら思った記憶が残っています。

新珠さんとの共演はおそらく『新吾十番勝負』第2部だけでしょう。当時は5社協定というのがあって、他社のスターと共演するにはさまざまな制約がありました。

それだけに総集編でカットされているのが惜しまれてなりません。

 

せつない母子の目と目の対面

鹿島神宮の撮影は上加茂神社で行なわれました。

輿の中のお鯉の方と新吾との目と目での一瞬の対面、感動的でしたね。いつまでも振り返って見るお鯉の方の姿がせつなくて、何度見ても胸がいっぱいになってしまう場面です。

 

大物スターの新人時代

この作品では淀屋の要助を山城新伍さん、須栄を五月みどりさんが演じています。

お二人のその後の活躍は周知の通りですが、山城さんは当時第2東映の若手ホープとして期待されていました。「新吾」第2部でみせる初々しさも見どころのひとつでしょう。

 

カットされた名場面

総集編では第2部は1時間近くカットされています。3番勝負に当たる山村聡さん扮する日本駄右衛門との場面全部。新珠三千代さんのお咲とのラブシーンも同様です。

『新吾十番勝負』は各部それぞれ1本1本を単独で見ても充分楽しめるだけに、1部と2部が総集編にまとめられてしまったことが残念で仕方ありません。

第2部の感動的な鹿島神宮での「母子の対面」と「一真に敗れた梅井多門の死」という物語の大きな柱は残されているものの、あらすじの展開にばかり重点が置かれてしまい、情感や余韻が失われてしまったようで、封切り時のオリジナル作品を見たいと思うのは私だけでしょうか。

 

 

                (文責・古狸奈 201066)