「曽我兄弟 富士の夜襲」


「曽我兄弟 富士の夜襲」

      19561017 東映京都作品)

原案・五都宮章人 

脚本・八尋不二 

監督・佐々木康

 

<配 役>

 曽我十郎祐成 …東千代之介

 曽我五郎時致 …中村錦之助

 大磯の虎   …高千穂ひづる

 化粧坂少将  …三笠 博子

 満  江   …花柳 小菊

 梶原景時   …大川 橋蔵

 畠山重忠   …大友柳太朗

 工藤祐経   …月形龍之介

 源 頼朝   …片岡千恵蔵

 

ものがたり

 頼朝の世、一万、箱王の父、河津三郎祐泰は工藤祐経の手にかかり、非業の死を遂げた。

 祐経の讒言で、一万、箱王の幼い兄弟に由比ガ浜で処刑の断が下されたが、畠山重忠の助命嘆願によって救われ、箱王は箱根の寺に送られた。

 それから12年、成人した十郎と五郎は、工藤祐経が富士に狩に来ることを知り、復讐を誓うのだった。雨の夜、ついに2人は決行、18年の怨敵を討つことができたが、十郎は自刃、五郎は捕らえられる。

 裁きの場で、五郎は今までの思いのたけを述べ、頼朝も兄弟の孝心に心を動かすのだった。

 

3大仇討ち物語

 「曽我兄弟」は「忠臣蔵」「伊賀越」と並んで、3大仇討ち物語のひとつで、映画や歌舞伎など、数多く上演されてきました。

 沈着冷静な兄の十郎と向こう見ずで乱暴者の五郎、全く正反対の兄弟が父親の仇を討つことを悲願に、長い年月を堪え忍び、本懐を遂げる物語は日本人好みのひとつといえるでしょう。特に対照的な兄弟のキャラクターが登場人物像に広がりを持たせ、物語の展開をより多様にさせています。

 豪快な錦之助さんと沈着な千代之介さん・・・「曽我兄弟」は対照的な2人の個性をより明確に引き出している作品といえそうです。

 

橋蔵さんの梶原景時

 この作品で橋蔵さんは梶原景時役で登場。一万、箱王兄弟を鎌倉に連れ戻し、由比ガ浜での処刑に立ちあう役。兄弟を助けたいと思いながら、自らの力ではできず、朗報を待ちわびます。助命嘆願が叶ったことを知り、パッと明るくなる橋蔵さんの笑顔が印象的です。

 この映画は曽我兄弟が中心の物語ですから、残念ながら橋蔵さんの梶原景時は10分程度しか登場しません。あまりに登場時間が短くて、ファンとしては物足りないことこの上なし。

 当時、錦之助さん、千代之介さんはすでにトップスターとしての地位を確立していました。2人の共演作品も次々と製作されていて、「曽我兄弟」もそうした作品のひとつ。

 それに対して橋蔵さんは人気急上昇といってもまだ新人。「最初の1年はとにかく名前を知ってもらうこと」と、役にはこだわらず、つとめて映画に出るようにしていたようです。

 主演でないのは残念ですが、仮に橋蔵さんが曽我兄弟を演じたとしたら、どうだったでしょう。十郎は華がありすぎ、五郎は気品と甘さが邪魔をしそう。となると、梶原景時役が一番橋蔵さんらしかったのかもしれません。主命を帯びて、兄弟を迎えに行く景時の鎌倉武者ぶりは、堂々として威厳に満ちていました。

 

カラー時代到来

 この「曽我兄弟」は昭和31年度芸術祭参加作品と銘打って、イーストマンカラーで製作されました。白黒映画時代からカラー映画時代への到来を告げる作品でした。

 配役もセミオールスターとでもいえるような、片岡千恵蔵、大友柳太朗、月形龍之介さんらが若手を盛りたて、豪華なものとなっています。まだ10代の北大路欣也さんも出演しています。助命嘆願したり、それとなく兄弟の窮地を救う、大友柳太朗さんの格好のいいこと。演じていてさぞかし気持ちよかったでしょうね。

 高千穂ひづるさんの大磯の虎の度胸のいい女っぷり。花柳小菊さんは子どもへの思いと婚家への義理とに揺れる母親役を好演。芯の強さと優しさ、気品あふれる姿が素敵です。

 

 

                    (文責・古狸奈 2010629