「おしどり道中」

 

「おしどり道中」

     (1959422 東映京都作品)

  脚本・比佐芳武  

  監督・佐々木康

 

  <配 役>

   草間の半次郎 …大川 橋蔵

   おもん    …青山 京子

   お 藤    …桜町 弘子

   金 平    …大河内傳次郎

   政 吉    …里見浩太郎

           甲州屋勘八  …進藤英太郎

ものがたり

 信州追分でいかさま賭博をあばいた半次郎は、和田山の貸元金平のもとに草鞋を脱いだ。

 金平の娘おもんを女房にと迫る甲州屋勘八。しかし、勘八を嫌ったおもんは半次郎を追うように家出をしてしまう。怒った勘八は金平を斬り、縄張りを我がものに。妹のお藤は借金のかたに遊女に売られ、一家は四散。

 おもんの消息を求めて、旅をする半次郎。追分の宿で、茶屋女となったおもんと再会するが、人違いと言い張るおもん。

 次郎太郎一家の挑戦を受けた半次郎の前に、変わり果てた姿のお藤が現れる。刃をくぐって、お藤を追う半次郎・・・

 

喧嘩しながら恋しあう

 この『おしどり道中』は、『喧嘩道中』、『旅笠道中』に続いて、脚本・比佐芳武、監督・佐々木康、主演・大川橋蔵で製作された股旅物、草間の半次郎シリーズ第3作目。今回は鼻っ柱の強い者同士が喧嘩をしながら、いつしか互いに恋しあう筋立てになっています。半次郎とおもんが喧嘩ばかりしていて、何でおしどり道中なのか、不思議に思ったものでした。

昭和13年頃、片岡千恵蔵さん主演で映画化され大ヒット。今回は脚本に大幅に手を加え、製作された時代にマッチした作品に仕上げられています。

 

鏡に映して思案しなせえ

 まず信州追分でいかさま賭博を颯爽とあばくところから始まります。善光寺詣の一行に分け入って、いかさまをやりこめる半次郎の格好の良さ。結局、それで次郎太郎一家と喧嘩になるのですが、めっぽう強くて子分が襲いかかるのを道中合羽で次々撥ね退け、最後は次郎太郎親分から奪い取った刀で相手の額をひと打ち。「悪事の心がもたげてきたら、その傷を鏡に映して思案しなせえ」と啖呵を切って、その場を去っていくのです。

惚れ惚れしますね。でも、いくら正しくてもそこまでやったら、怨まれますよ。半次郎さん。

 普通だったら、気障になりそうなこの場面。橋蔵さんだと、小気味よくて、文句なくステキに思えるのはどうしてでしょう。不思議です。

きっと歌舞伎で培われた基礎が美しい動きを生み出しているからなのでしょう。

 

股旅物はロケが楽しい

 この信州追分の場面の撮影は、時代劇ではお馴染みの亀岡街道を中仙道追分宿に見立てて行なわれました。馬まで駆り出した道中風景。ほかに千歳村、郷の江村などで撮影が行なわれたようです。カメラが遠くから半次郎の歩く姿をとらえて、三波春夫さんの主題歌が流れるスタイルです。

 橋蔵さんは「股旅物はロケが多いので楽しい」と書かれていて、一句詠まれています。

   春のロケ よくぞ役者に生まれける

 

意地っ張り同士の恋模様

 おもんが行方不明と聞いて、和田山に訪ねていったものの、「出て行ってくれ」と金平に言われて立ち去る場面。表戸を開けて一瞬、立ち止まり、次に足早に去っていく間の取り方。舞台仕様ともいえる動きですが、半次郎の迷いと決断が後姿にあらわれています。

 灯篭を見上げて、小石を拾い、結局は捨ててしまう半次郎の心の動き。おもんが半次郎の心の中に徐々に占めていく様子がわかりますね。

 おもんに巡り会い、人違いだと言われて、怒って外へ出たものの、向かいの旅籠に宿を取る半次郎。道を挟んで向かいの障子に映るおもんの影。障子に仕切られて姿は見えず、くゆらすタバコの煙だけが漂う反対側の半次郎の部屋・・・お互いに相手を気にしながら、それ以上は進めない意地っ張り同士の恋模様・・・情感あふれる場面です。

 

おもんに重なる若いころ

 金平の2人の娘、おもんとお藤は対照的に描かれています。勝気なおもんと清純なお藤。

 おもん役の青山京子さん。東映初出演。橋蔵さんは青山さんがシャキシャキしていて、いい喧嘩友だちができたと大喜び。スタジオ内でも楽しくやりあっていたようです。

 この『おしどり道中』、スチール写真の三度笠の裂け目からちらりと見える橋蔵さんの横顔と流し目、ゾクッとするほどステキですね。

格好のいい橋蔵さんに会える楽しい作品なのですが、私は橋蔵さんを見たいのと、バツが悪くて逃げ出したくなるのとが半々なのです。何しろ甘やかされて育ち、世間知らずで跳ねっかえりだった私は、おもんを見ていると、若いころの自分と重なって、何となく落ち着かなくなってしまうのですね。

 好きなのに意地を張ってわざと減らず口を叩いてみたり、相手の思いに関係なく自分勝手に行動したり・・・入水したお藤をいたぶるおもんに、「なんてぇ野郎だ、お前って女は」という半次郎の台詞。思わずスクリーンに「橋蔵さん、ごめんなさい」。何だか自分が叱られているようで。

 メキシコで暮らすようになって、それなりの苦労を経験し、今では多少はマシになったのではないかと思うのですが、昔を思い出すと恥かしくて・・・

 青山京子さん曰く。「おもんは口じゃ強いことを言っても弱い女」。そうでしょう、そうでしょう。よーくわかりますとも。

 

 

(文責・古狸奈 20101123)