「花の折鶴笠」

 

「花の折鶴笠」

 1962121 東映京都作品)

   脚本・大塚稔、結束信二 

   監督・河野寿一

 

   <配 役>

    苫の半太郎 …大川 橋蔵

    朝   吉 …橋  幸夫

    土筆のお芳 …桜町 弘子

    お   菊 …北条きく子

    弥 佐 平 …有馬 宏治

    熊谷甚十郎 …佐藤  慶

                     六 兵 衛 …千秋  実

ものがたり

 ここは東海道馬入川の渡し。岸を離れる舟に船賃をまけろと声をかけたのは苫の半太郎。それに答えて金を出してくれたのが、大阪の米問屋鳴海屋の番頭弥佐平。治療のため盲目の娘、お菊を連れて江戸に向かう旅だった。

 この2人をカモと狙う女スリ、お芳に金は掏られ、お菊は博徒、丑松、目吉らにだまされて連れ去られてしまう。

 掏り取った金を懐に突っ込まれたおかげで、すかんぴんだった苫の半太郎はとたんに大名気分。泊まった宿で殿様と間違えられ、悦に入っていたのだが・・・

 

大根かじり卵泥棒

 今回の橋蔵さんは徹底した3枚目ぶりを披露します。オープニングと同時に、お金がなくて腹ペコの苫の半太郎は畑に植えられている大根を引き抜き、齧るところから始まります。顔は泥だらけ、首には汚れたよれよれの手ぬぐい。どう見てもチンピラやくざ。

 今までの橋蔵さんの股旅ものシリーズ、草間の半次郎のような颯爽としたところは全然ありません。

 僅かな金を博打に賭けてすってしまい、渡し舟の船賃までない始末。卵泥棒をしたり、枝になっている柿を取ろうとしたり・・・それが、お芳が掏り取った金を懐に突っ込まれたことで一変。ちゃっかりと懐に入った金は自分のものと、にわか成金振りを発揮して、加賀百万石ゆかりの殿様と間違えられてしまうのです。

 ふかふかの座布団を足で踏んで、感触を確かめたり、火鉢のふちに乗ったり、活けてある渋柿をむしりとって、齧って吐き出したり・・・今までの橋蔵さんには決して見られない品のない苫の半太郎です。

 

さえない立ち回り

 立ち回りも颯爽としたところはありません。

座古谷一家と熊谷双方に追われたお菊を助けようとして、半太郎は朝吉と大暴れしますが、決して強いわけでなく、染料の桶をひっくり返したり、物干し竿を落としたり、逃げ回っているうちに、相手の方がお互いにぶつかり合ってのびてしまう図式。

最後の熊谷甚十郎との対決にしても、相手が誤って生垣に突き出た剣に、倒れて突き刺さってしまい自滅するのです。

『清水港に来た男』や『若さまやくざ』などでは、本当は強いのだけれど、わざと弱いふりをしているような余裕が感じられましたが、今回の苫の半太郎は必死になって応戦している感じで、よりリアルになっています。その分、颯爽とした立ち回りからは程遠く、どちらかというとさえない立ち回りといえるでしょう。

 

夢の中の華麗な舞

 徹底した汚れぶりの橋蔵さんがこの作品で唯一、本来の美しい姿を見せるのは、お菊の夢の中。殿様姿で現れ、2人で舞う華麗な折鶴の舞。踊りのテンポも軽快で、平安絵巻を見るような美しさです。これでファンはホッとするのですね。

 

勝気な姐御で違った魅力

 可愛らしい町娘や武家娘役の多かった桜町弘子さんが、この作品では鉄火肌の女スリを演じています。幾分きつい目元のメーキャップで、勝気な姐御を好演。違った魅力をみせています。

 また、股旅ものにつきものの唄は橋幸夫さん。朝吉役で出演しています。

 

汚れ役の中にみえる円熟度

 終始、いいとこなしの3枚目の橋蔵さんですが、些細なしぐさのひとつひとつに役者としての円熟度を感じます。監督は『若さまやくざ』と同じ、河野寿一氏。

前回の『若さまやくざ』はどちらかというと漫画的な作られた笑いでしたが、今回は極めて自然体で、半太郎のようなチンピラやくざなら、とんちんかんな行動もやりかねないと思わせる3枚目ぶりなのです。

それでいて、お菊の純真さに打たれて助ける決心をしたり、目が見えるようになったときの我が身を恥じて、会わずに去っていく潔さも持っています。

庶民的な飾らない演技の中に、半太郎の性格や育ち、生活環境まで髣髴とさせられ、汚れ役や3枚目は不向きとされていた橋蔵さんの新たな領域を認識させられる作品です。

 

 

(文責・古狸奈 2010729)