「新吾二十番勝負」完結篇

 

「新吾二十番勝負 完結篇」

     1963713 東映京都作品)

  原作・川口松太郎 

  脚色・中山文夫

 監督・松田定次

 

  <配 役>

   葵 新吾  …大川 橋蔵

   お鯉の方  …長谷川裕見子

    お  縫  …桜町 弘子

   い  と  …北条きく子

   六尺六平太 …千秋  実

   不動漢山  …田崎  潤

   弘  徳  …山形  勲

   武田一真  …月形龍之介

           徳川吉宗  …大友柳太朗

 

ものがたり

 真崎庄三郎の仇、弥次郎を討った新吾は納富一無斉を薬師岳に訪ねるが、一無斉はすでに死んでいて白骨化していた。

 剣の道の厳しさを感じながら山を下りる新吾は、僧侶弘徳に会い、「全てを救う道は剣でない。あなたは地上を済度するために生まれてきた弥勒菩薩だ」と剣を捨て、将軍の子として生きるよう諭される。

正義のため振りかざした剣が、新たな悲しみを作り出す・・・剣の業に悩む新吾。

 一方、御前試合に敗れた武田一真はさらに技を磨き、再び新吾の前に立ちはだかるのだった。

 新吾を求めて、巡礼の旅に出るお鯉の方とお縫・・・

 

因縁を紐解いて

 『新吾二十番勝負 完結篇』が封切りされたのは、19637月のことでした。同二十番勝負の「第2部」が発表されてからまる2年の歳月が経っていました。

 人気シリーズでありながら、2年もの間、製作されなかったのは、出産と育児で映画出演に制約があった、お鯉の方役の長谷川裕見子さんの都合に合わせてのことだった、と伝えられています。お鯉の方は長谷川さんしかいない、ということだったのでしょう。

 『二十番勝負』の「1部」と「2部」は白根弥次郎とその師、納富一無斉を中心に物語が展開していきますが、弥次郎とのことは「2部」で終わったものとし、「完結篇」は『新吾十番勝負』からの因縁を紐解いていく形で進んでいきます。

 宿敵・武田一真との再会、執拗に追ってくる柳生一門。そして、何よりも正義のため振りかざした剣で、新吾に斬られた者の遺族の悲しみ。正義の剣が新たな悲しみを生み出していく、という重いテーマが掲げられているのです。

 

正義のため振りかざした剣が

 「愛と憎しみの火の消えざる限り、人の業もまた消ゆることなし」と書かれた冒頭の文字。新吾が訪ねる宝願寺の本堂に並べられた夥しい位牌。たとえ正義とはいえ、多くの命を絶ってしまった新吾の剣。新たな悲しみと憎しみを生み出し、正しくとも、力では決して全てを平穏に収めることができないことを作者は主張しています。

 今日、世界各地で繰り広げられるテロや民族紛争に思いを馳せるとき、50年前にすでに予知していた作者の先見性を思い知らされるのです。

 ヒーローが悪い奴らをバッタバッタとやっつける勧善懲悪型の時代劇から、力で制圧することで新たに生まれてくる因業をテーマに掲げたことで、この「完結篇」は単なる娯楽時代劇から一歩先に進んでいるのです。

 

親子の情愛と対面の行方

 とはいえ、やはり気になるのは母と子の対面の行方。幾度となく叶いそうで叶わなかった母と子の対面。「新吾」シリーズを完結させるためには、どうしても避けて通ることのできないテーマです。

 新吾を求めて巡礼の旅に出るお鯉の方のひたむきさ。自分が大奥から去ることで、西の丸派からの新吾への風当りを和らげたいとする母心。一方、剣を求めながらも、心の底で母を恋うる新吾。さらに顔も知らない父親を捜し求めるおいとの哀れ。それぞれの親と子の情愛をこと細かく描き出します。

 しかも、新吾が斬った相手・不動漢山がおいとの実の父であるという皮肉。運命の不条理を突きつけられるのです。

 傷つきながらも母の元に駆けつける新吾。やっと巡りあい、物語はめでたく幕を下ろしたのでした。

 

宿敵・一真との最後の対決

 「新吾」シリーズで登場した事件や人のその後を、「完結篇」では丁寧に取り上げています。まずは、

  新吾に斬られた遺族や遺臣たち。

『十番勝負』の「1部」で登場する井上河内守の遺児しづ姫、蜂須賀藩士北川頼母の妻子などのその後。汚名と同時に生活の糧を失った遺児たちへの救いを求められた新吾は、父吉宗に頼らなければならない立場に悩み、葛藤します。

次々に起きる事件、山形勲さん扮する梅井多門の兄・弘徳が遺児たちと新吾をつなぐ重要な役割を果たしています。

 ②お鯉の方の父親を手打ちにした吉宗の心の傷。

大奥に戻らずお長として、父親の菩提を弔うお鯉の方を音羽村に訪ねる吉宗。その行列に笠を追って飛び出した町人。お鯉の方の父親を手打ちにした過去がよぎります。新吾の数奇な運命も元はといえば、お長が父親の仇として、頼方に斬りつけたことが発端。さまざまな思いが巡るなか、吉宗が町人を赦したことで、吉宗にとって長い間、心の隅に疼く傷だったことがわかります。

この行列の壮麗さ。エキストラの人数といい、東映時代劇の全盛期を物語っていて、圧巻です。

③宿敵・武田一真との対決

『十番勝負』の最後、御前試合で新吾に敗れた武田一真はさらに技を磨き、新吾の前に現れます。またもや、危機一髪のところをおいとの小柄に助けられて・・・

月形龍之介さんの武田一真との対決場面。寸分の隙も赦されない緊迫感が漂います。手傷を負いながらも、新吾は辛うじて一真を倒し、2人の対決はようやく決着をみるのです。

 

『二十番勝負』の「1部」と「2部」に登場する由紀姫と甲賀新八郎が「完結篇」に出てこないのは何だか淋しい気がします。おそらく上映時間の制約があったのでしょう。

かわりに「完結篇」で新吾の相手役をつとめるのは、北条きく子さんのおいと。最後は新吾の腕の中で、息絶えてしまうのですが・・・

大台ヶ原の山頂で、茜色に染まる空を眺める母と子。安らぎを感じさせる新吾の笑顔。初々しい美女丸から数々の試練を経て、「新吾」シリーズはついに完結したのでした。

 

 

(文責・古狸奈 201367