「ふり袖捕物帖 若衆変化」
「ふり袖捕物帖 若衆変化」
(1956・11・7 東映京都作品)
原作・瀬戸口寅雄(「大江戸女地獄」)
脚本・鈴木兵吾
監督・松村昌治
<配 役>
お七(妙姫) …美空ひばり
川島源次郎(寺尾源次郎)…大川橋蔵
早耳の五郎八 …堺 駿二
喜 代 文 …浦里はるみ
阿部伊勢守 …神田 隆
真鍋新八郎 …原 健策
山田周防守 …堀 正夫
長崎屋金八 …香川 良介
ものがたり
江戸の町に発生した誘拐事件。それもさらわれたのは小町娘ばかり14人。いまだに手がかりがつかめない。
そんな折も折、師匠と松葉屋のお花が誘拐され、捜査に乗り出すお七。へっぴり腰の源次郎は役に立たず、下っ引き姿で聞き込みをはじめたが、夜道を襲われ、白頭巾に助けられる。
やがて長崎屋の別邸が怪しいと、目をつけたのだが・・・
ひばりさんの8変化
この作品でひばりさんは、町娘(2)、若衆、薬売り、姫君、小姓、洋装の歌姫、手古舞と8変化。本当は阿部伊勢守の妹、妙姫なのですが、窮屈な屋敷暮らしを嫌って、市井に住む町娘、お七という設定。
「ふり袖捕物帖」シリーズ第1作で、唄あり踊りありの楽しい作品です。
橋蔵さんは踊りの稽古に通う、剣術はからきしダメという頼りない侍、川島源次郎。ひばりさんが代稽古をする師匠の稽古場でひとさし舞うところから登場です。まずは後姿での舞い姿、振り返って扇を顔からはずして・・・待ってました!
ひばりさんも花柳流の名取り、おふたりの息のあった稽古ぶりも艶やかです。
橋蔵さんは「目千両」
お七の危難のたびに颯爽と現れて去っていく、白頭巾。
白頭巾は一体何者、というわけですが、頭巾を被っていても、あの目元を見れば誰だかわかりそうなもの。
『雪之丞変化』の黒門町のお初姐さんじゃないけれど、「目だよ。私しゃ、あの目に惚れたんだよ」というのが、橋蔵ファンの共通の思い。他は全部隠しても、目だけでしびれてしまうほど橋蔵さんは「目千両」なんですよね。
ところが橋蔵さん、この目が自分の顔で一番気に入らないんだとか。「近代映画」57年7月号の北原三枝さんとの対談の中で、北原さんが「現代劇にも通用するマスク、モダンで」と話しているのに対して、橋蔵さん、「目が小さいので現代劇に出る勇気がない。時代劇はメーキャップで目を大きくすることができるけど・・・顔の急所は目だから現代劇には落第」なんだそうです。他でも似たような発言をされていて、あの涼しげで、何ともいえない色気のある目にコンプレックスをお持ちとは・・・意外や意外。
そんなこと言わずに、出てくれたらよかったのに。橋蔵さんの現代劇、見たかったですよね。
煙にむせてドスン
お七の夢の中で、源次郎が「女らしいお七ちゃんを見ていると、好きになりそうだ」と愛を告げるシーン。芒の原に霧がたちこめ、幻想的な演出ですが、この霧、実は白煙筒を焚いたもの。スモーク係が大きなボール紙で煙をバサバサ煽いで・・・
橋蔵さん、ひばりさんを抱き寄せようとした途端、煙にむせ、おまけにひばりさんの体重がかかって、ドスンとひっくり返る一幕も。もっと悲惨だったのは煙とラブシーンにあてられた照明係だったとか。
異国情緒も
洋装で唄うひばりさん。時代劇にドレス、とちょっと変な感じがしますが、時代背景はペリー来航(1853)から日米和親条約を結ぶ前という設定ですから、長崎屋の別邸という限られた場所なら、別におかしくないわけです。異国情緒もふんだんに取り入れられ、楽しい場面となっています。
ちなみに当時の首席老中・阿部正弘(1819―1857)は官位従5位下伊勢守。お七が実在していれば老中の妹君妙姫は、本当に身分の高いやんごとなきお方というわけ。荒唐無稽に見える時代劇も、時代考証など押さえるべきところは結構押さえているもので、馬鹿にしたものでもありません。ここは史実、ここは架空と、いま流行の仕分け作業をしてみるのも楽しいものです。
外国人バイヤーを演じているのは全て日本人の俳優さん。今のように外国人を直接起用することは少なくて、彫りの深い顔立ちの日本人がメーキャップで外国人を演じることが多かったようです。
最後はピストルやフェンシングまで登場。頼りない源次郎が実は白頭巾とわかって、颯爽とした立ち回りが繰りひろげられます。
(文責・古狸奈 2010・7・17)
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