「ふり袖太平記」
「ふり袖太平記」
(1956・10・9 東映京都作品)
原作・斉藤豊吉(「平凡」連載)
脚色・八尋不二
監督・萩原 遼
<配 役>
露木新太郎 …大川 橋蔵
小 浪 …美空ひばり
旋風の次郎吉 …星 十郎
濡髪おえん …浦里はるみ
幾江小市郎 …片岡栄二郎
駒木 飛騨 …吉田 義夫
ものがたり
安房館山の名家里見家の血筋を引く菅谷織部正は6000石の江戸常勤の旗本。一人娘の小浪は国元で乳兄妹の露木新太郎と健やかに成長していた。
だが、小浪の母親を離別させ、妹繁野を正室に据えた駒木飛騨は菅谷家乗っ取りを企んでいた。盗賊の次郎吉に江戸城の書物庫から「里見家改易次第書」を盗ませ、失脚を謀ったが、次第書に10万両の謎を秘めた鍵形赤銅造りの手鏡が存在することがわかり・・・
雑誌連載とラジオ放送
『ふり袖太平記』は斉藤豊吉原作、矢島健三画で、1956年上半期、雑誌「平凡」に連載された同名小説が映画化されたものです。挿絵には橋蔵さんとひばりさんの写真がはめこまれ、今見てもわくわくする誌面となっています。
また、残念ながら私は聴いていないのですが、土、日曜を除く毎日、5時から5時15分、ラジオのニッポン放送でも連続ドラマとして流されていたようです。
ラジオといえば、57年1月から59年2月までラジオ東京(TBSラジオ)で放送された『赤胴鈴之助』を思い出します。福井英一、武内つなよし氏の『赤胴鈴之助』は1954年、「少年画報」に第1回が掲載されたあと、福井氏が急逝、武内氏が引き継いでヒット作となりました。
ラジオでは鈴之助…横田毅一郎、しのぶ…藤田弓子、小百合…吉永小百合、語りは当時15歳だった参議院議員の山東昭子さんが出演していました。テレビなどまだ一般家庭にはない時代でしたから、ラジオが最高の楽しみ。毎回、ラジオに耳を近づけて聴き入り、想像を膨らませていたのです。
『ふり袖太平記』のラジオ放送を知っていたら、きっと夢中になって聴き入ったことでしょう。どこかにテープでも残っていないかと、願うのですが・・・
里見家と『南総里見八犬伝』
さて、南総館山の里見家は中世栄えた名家でしたが、1622年、忠義の妻の実家、小田原城主の大久保義隣の改易に連座させられ、安房は没収。当主の忠義が没すると跡継ぎがいなかったため、里見家は断絶してしまいました。
やがて、江戸時代後期、曲亭馬琴(滝沢馬琴)が読本『南総里見八犬伝』を著しました。里見家の史実を土台にしながらも、歴史的事実より虚構を大きくふくらませ、文化11年(1814)に刊行が開始され、28年かけて天保13年(1842)に完結。全98巻、106冊に及ぶ大作となりました。執筆途中失明し、息子の妻の路が口述筆記したと伝えられています。上田秋成の『雨月物語』などと並ぶ江戸時代の戯作文芸の代表作で、日本の長編伝奇小説の古典の1つとされています。馬琴作には他に『椿説弓張月』などもあります。
『南総里見八犬伝』は室町時代を舞台に、安房国里見家の姫・伏姫と神犬八房の因縁によって結ばれた8人の若者(八犬士)を主人公とする物語で、発端や構成など『水滸伝』の影響を受けているといわれています。儒教道徳に基づく勧善懲悪や因果応報などが色濃く出され、発行部数は500部ほどでしたが、貸本で多くの人に読まれました。
手鏡に刻まれた8つの文字
「犬」の文字を姓に持つ八犬士は仁・儀・礼・智・忠・信・孝・悌の文字のある数珠の玉(仁義八行の玉)と、ぼたんの形のあざを身体のどこかに持っているのですが、『ふり袖太平記』ではこの8文字が鍵形の手鏡に刻まれていて、その文字をたどって里見家の財宝を探し当てるという展開になっており、『八犬伝』を意識して書かれたことは間違いないでしょう。
また、物語の最後は、天明4年(1784)、老中田沼意次の長男、若年寄の田沼意知が刺され、その事件がきっかけとなって、田沼政治が衰退していった史実を伏線に、父親が赦免になる形でめでたくまとめられています。
トミイ・マミイの魅力満載
この作品での橋蔵さんは初々しく瑞々しい若侍ぶりを発揮しています。冒頭の振り返りざまアップに映し出される笑顔は思わず胸がキュンとなるほど素敵ですね。今風に言えば、まさしく「国宝男子」です。
ひばりさんは気の強い武家娘ぶりが何とも愛らしく、敵の目をくらますための男装も嫌味となっていません。好きなのに素直に言えず、喧嘩ばかりしてしまう勝気な娘役はひばりさんならではの魅力があり、『おしどり囃子』同様、爽やかなトミイ・マミイコンビの魅力満載の作品です。ふたりとも若くて、青春真只中。
星十郎さんは珍しく、完全な悪役。駒木飛騨の手先として次第書を盗み出し、財宝の秘密を知ると、今度は自らが先回りをして小浪の手鏡を狙い襲うという許せない奴。
その上のさらに憎っくき悪役が吉田義夫さんの駒木飛騨。吉田さんの凄みのある悪役ぶりは子供心にいつ見ても恐かったことを思い出します。
浦里はるみさんの濡れ髪おえんの色っぽいこと。妖艶で大人の魅力に溢れています。
片岡栄二郎さんの幾江小市郎は片岡さんの真面目さがにじみ出ています。
堺駿二さんは今回は年寄りの爺。どんな役でも観客に笑いの渦を引き起こしてくれる貴重な役者さんです。
デビュー12作目の『ふり袖太平記』。橋蔵さんは演技も立ち回りもまだ完璧とはいえませんが、敵に取り囲まれたとき、中央にすっくと立つ姿は踊りと舞台で鍛えた素養を感じさせます。
立っているだけで絵になる橋蔵さんは、「かっこいい男子は国宝」(「女性自身」2013年1月15日号)と語られる写真家・蜷川実花さんと同時代に生きていらしたら、間違いなく「国宝男子」ナンバーワンとして、写真集のトップページを飾ったことでしょう。
(文責・古狸奈 2013・1・29)
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