「緋ざくら大名」
「緋ざくら大名」
(1958・1・29 東映京都作品)
原作・山手樹一郎(「家の光」桃源社刊)
脚色・斎木 祝
監督・加藤 泰
<配 役>
松平千代三郎 …大川 橋蔵
鶴 姫 …大川 恵子
お 松 …故里やよい
北崎外記 …大河内傳次郎
藤尾圭之介 …尾上鯉之助
浅 吉 …千秋 実
菊 島 …浦里はるみ
馬場三十郎 …加賀 邦男
ものがたり
桑名11万石の松平千代三郎は押し付けられた縁談を嫌って、屋敷を飛び出し、浅草の掛小屋で囃し方を手伝って暮らしていた。芝居の最中、追われて飛び込んできた北条5万石の鶴姫を助けた千代三郎。
身分も明かさず、屋敷にも帰りたがらない鶴姫を、結局は「いただき長屋」に連れてくることになった千代三郎だったが・・・北条5万石の乗っ取りを企む紀五郎一味が、鶴姫を執拗に狙ってくるのだった。
全てがめでたしの明朗時代劇
周囲から決められた縁談を嫌って、屋敷を飛び出した桑名藩11万石の次男坊若さまと、同じく北条5万石のじゃじゃ馬姫君。北条家のお家騒動がからまって、千代三郎が姫を助けたことから、お互い相手を知らず浅草のいただき長屋で芽生える恋心。最後は逆臣を滅ぼし、実は相手が許婚という全てがめでたし、めでたしの橋蔵さん主演映画らしい明朗娯楽時代劇の決定版です。
もともと気品があって、若さま役がぴったりの橋蔵さんと、やはりお姫様役がぴったりの大川恵子さん。大川コンビの魅力が溢れた作品です。
様式美を求めた名匠・加藤監督
リアリズムとローアングルの様式美を追い求めた名匠と評され、多くの橋蔵作品を手懸けられた加藤泰監督は1916年8月24日、神戸市生まれ。本名は泰通。母方の叔父が山中貞雄で、叔父を頼って映画界入りし、成瀬巳喜男の助監督などをつとめました。
戦前は記録映画を撮っていましたが、戦後、47年、大映京都で伊藤大輔監督の助監督をつとめ、51年、宝プロ『剣難女難』で監督デビュー。東映での監督は57年『恋染め浪人』からとなっています。
ローアングル、リアリズム、長回し、ワイド画面をいっぱいに使う緊張した構図など、独自の様式美を追求し、娯楽精神とリアリズムに満ちた映画作りが特徴とされています。
藤純子をスターダムに押し上げた『明治侠客伝 三代目襲名』では任侠の世界に男女の情念を巧みに盛り込み、「緋ぼたん博徒」シリーズは傑作揃いと言われています。72年以降は東映を離れ、松竹『人生劇場』、『花と龍』、『宮本武蔵』、東宝『日本侠花伝』などを製作されています。(「キネマ旬報」)
橋蔵さんの作品では『紅顔の密使』、『大江戸の侠児』、『炎の城』、『風の武士』、『幕末残酷物語』などがあり、『緋ざくら大名』は監督が橋蔵さん主演でメガホンをとられた初めての作品です。
気品溢れる大川コンビ
江戸時代の家長制度は長男が家を継ぎ、次男以下は婿養子にでもならなければ、一生部屋住みで、うだつがあがりませんでした。それは大名家でも同じこと。桑名11万石大名の次男坊若さま、千代三郎も男子のいない大名家に婿へ、というわけで、北条5万石の姫君との縁談がととのったわけなのですが・・・
大名家の生まれという家柄や育ちがよくて、それでいて次男坊の気楽さ、といった役柄は橋蔵さんならではのもの。『若さま侍』をはじめ類似した役柄を多く演じています。今回も橋蔵さんの魅力、全開。気品があって、颯爽としていて、気さくで・・・お楽しみください。
姫君役といったら何といっても大川恵子さん。どんな役を演じても育ちのよさを感じさせる女優さんです。今回はじゃじゃ馬姫君。千代三郎や家臣を困らせて、笑わせました。こんな姫君なら困らせられるのも嬉しいかもしれません。
千代三郎を慕うお松役の故里やよいさん。凛々しい男装姿を見せています。この故里さんはやはり加藤監督の『紅顔の密使』で夜叉姫を演じ、妖艶な舞いを披露。妖しげで異国情緒たっぷりで、ファンを魅了しました。
浅吉役の千秋実さんは橋蔵さんと縁浅からぬ共演者です。橋蔵作品には数多く出演され、笑いと涙を誘い、作品に潤いを与えてくれる貴重な存在です。
忠義な家臣に尾上鯉之助さん。家老の大河内傳次郎さんの安定感。馬場三十郎役の加賀邦男さんと菊島役の浦里はるみさんは今回は敵役に回っています。
橋蔵さんの花と色
ところで、タイトルの『緋ざくら大名』の緋色に桜。緋色も桜もいかにも橋蔵さんらしいネーミングです。橋蔵さんの映画に出てくる色は『緋ぼたん肌』、『緋ざくら大名』、『くれない権八』、『紅鶴屋敷』、『紅顔の密使』、『赤い影法師』など、赤や緋色が多く、逆に犯罪や悪の象徴とも言うべき黒は『黒い椿』や『黒の盗賊』とほんのわずかしかないことがわかります。
橋蔵さんの色は赤や緋色、花ならば桜やぼたんのような華やかで優しい色合いが似合うということなのでしょう。あとは清潔感をあらわす白。多くの橋蔵作品の中で、最後の大立ち回りの場面で、白い衣装でみせる艶やかな殺陣。黒っぽい衣装の絡み手の中央で、際立つ白。これも潔さと様式美を併せ持つ橋蔵さんの色といえるでしょう。
この『緋ざくら大名』は白黒映画なのですが、画面から匂いたつような色彩を感じるのは私だけでしょうか。
(文責・古狸奈 2013・8・31)
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