「大江戸七人衆」
「大江戸七人衆」
(1958・4・30 東映京都作品)
脚本・比佐芳武
監督・松田定次
<配 役>
勝川縫之助 …市川右太衛門
秋月荘四郎 …大川 橋蔵
蓮 月 院 …千原しのぶ
お い ち …桜町 弘子
お せ ん …花園ひろみ
染 吉 …花柳 小菊
相良 伊織 …伏見扇太郎
村山又三郎 …南郷京之助
新田啓之助 …尾上鯉之助
村瀬源三郎 …東千代之介
平原甚兵衛 …大友柳太朗
ものがたり
勝川縫之助を中心とする旗本一派は上席旗本の松平帯刀一派からことあるごとに嫌がらせを受けていた。穏便にすまそうと帯刀の屋敷に出向いた勝川は逆に強請と老中に訴えられ、甲府勤番として江戸を追われてしまう。
勝川が江戸を去った後、帯刀一派の挑戦はますます執拗となるのだった。・・・
時代劇の醍醐味を凝縮
この『大江戸七人衆』は脚本・比佐芳武、監督・松田定次の当時東映時代劇にあって、最強のコンビで製作された娯楽時代劇。出演者も市川右太衛門、大友柳太朗、大川橋蔵、東千代之介、伏見扇太郎、尾上鯉之助、南郷京之助といった主演級のスターが勢揃い。綺麗どころの女優陣も花柳小菊、千原しのぶ、桜町弘子、花園ひろみが華を添え、まさしくセミオールスターともいえる豪華な配役です。スターシステムをとり、多くの人気スターを擁していた東映だからこそできた時代劇の醍醐味を凝縮した作品といえるでしょう。
悪役はあくまでも憎らしく
物語は市川右太衛門さんの勝川縫之助率いる善玉グループと山形勲さんの上席旗本松平帯刀一派と鬼留一家の悪玉グループの対立・抗争劇。散々嫌がらせを受けた主人公たちがついに堪忍袋の緒が切れて、最後に悪者どもを皆でやっつけるというお定まりのあらすじですが、7人ものスターが出演しているとあって、見せ場の立ち回りも多くなっています。最後の方で、大友柳太朗さんが殺される場面は凄絶さが漂いますが、他は当時の時代劇の傾向として、返り血を浴びることもなく、芝居小屋での大暴れなど、颯爽としたスターたちの活躍に、思わず拍手を送りたくなるような痛快な気分で楽しめます。
主役は市川右太衛門さんの勝川ですが、上席旗本一派の奸計にあい、甲府勤番に左遷されてしまうため、中盤は登場せず、大友柳太朗さんが物語の中心となっていきます。染吉を助けるため、危険を承知で単身乗り込み、髪振り乱し、殺されてしまう場面は凄絶で圧巻です。
この作品でも芸達者な悪役揃いで、薄田研二さんのご隠居の帯刀に悪知恵を授ける参謀ぶりが物語をより面白くしています。悪役はあくまでも憎らしく、観客に敵意を感じさせるほどに演じ切ることが、見る者の主人公たちへの思い入れとなって、より映画にのめり込ませるのでしょう。
個性を生かした役どころ
登場人物も7人のスターの個性を生かした役どころとなっています。貫録十分の市川右太衛門さんが物語の中心で要を押さえ、豪放な大友柳太朗さんが準主役として、迫力と緊張感を盛り上げています。子持ちの男やもめ役は東千代之介さんの新しい魅力を引き出しました。
異色なのは南郷京之助さんの歌舞伎役者役での抜擢。てっきり私は南郷さんは里見浩太朗さんと同期のニューフェイス出身だと思っていたのですが、改めて調べてみると名前が見つかりません。しかし、当時東映京都にあって、会社が随分と売り出しに力を入れていたように感じた役者さんでした。
未来のスター、ニューフェイス
ちなみに、そのころの映画界は5社協定があり、スターたちの貸し借りを禁じていたため、それぞれの会社独自でスターを育てなければなりませんでした。歌舞伎界などから一通りの人材が出尽くしたあとは、外部から未来のスターを求めたのです。会社ごとにオーディションを行い、ニューフェイスとして採用。研修後、新人としてデビューさせていました。「東映たより」などで新人のプロフィールなどをよく目にしたものです。
東映ニューフェイスは1953年から69年まで行なわれ、大体20人前後が採用されました。最初のころのニューフェイスに中原ひとみ(1期)、高倉健、丘さとみ(2期)、里見浩太朗、大川恵子、桜町弘子(3期)、佐久間良子、花園ひろみ、山城新伍(4期)、梅宮辰夫(5期)、千葉真一、亀石征一郎、太地喜和子(6期)、宮園純子、三沢あけみ、三島ゆり子(7期)さんらがいます。水着を拒否したのに合格した佐久間良子さん、2万6000人の応募者の中からトップで合格した千葉真一さん、といったエピソードが残っています。
ニューフェイスとして採用されても、役もつかず、人気も出ず、そのまま消えてしまう人も多く、いかに厳しい世界だったかがうかがえます。第2東映はそうした新人たちの活躍の場、売り出しの場だったともいえるでしょう。
松田監督作品27本
さて、橋蔵さんはちょっと気の短い正義派の若侍役で登場です。松田監督作品としては『任侠清水港』、『任侠東海道』、『丹下左膳』に次いで4作目。松田監督が東映の重鎮として、オールスター作品、丹下左膳シリーズ、新吾シリーズを手がけられていたこともあって、このあと、松田作品の多くに出演することになるのです。
畠剛著『松田定次の東映時代劇』(ワイズ出版 2001)によると、松田監督は俳優の動きをこまかく指示するタイプの監督だったらしく、風呂敷を広げる細かい動作や次郎長一家の歩行まで意図する速さを要求されたとか。自由に演じたい役者さんなどはそれを嫌ったようで、錦之助さんも、初期のころは松田監督での主演作品もありますが、後半は遠ざかり、オールスター作品でも錦之助さんの場面はマキノ監督が担当されました。
それに対して橋蔵さんは華麗な立ち回りや所作など、橋蔵さん独特のリズムが監督の求めるモンタージュやリズムにぴったり合うなど、相性も良く、多くの名作を生み出しました。前述のオールスター作品、「丹下左膳」、「新吾」シリーズのほか、『風流使者 天下無双の剣』、『天下の伊賀越 暁の血戦』、『血煙り笠』、『若さま侍捕物帖 お化粧蜘蛛』、『人斬り笠』、『バラケツ勝負』など27作品に出演しています。
スクリーンに描き出される美男美女の恋模様も映画の楽しみ・・・右太衛門さんと花柳小菊さん、大友柳太朗さんと花園ひろみさん、東千代之介さんと桜町弘子さん、それに橋蔵さんと千原しのぶさん。それぞれのカップルも「ご両人!!」と声をかけたくなる艶やかさ。贅沢ここに極まれり!!
よき時代の娯楽時代劇をお楽しみください。
(文責・古狸奈 2016・1・11)
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