「水戸黄門 天下の副将軍」
「水戸黄門 天下の副将軍」
(1959・7・12 東映京都作品)
脚本・小国英雄
監督・松田定次
<配 役>
水戸 光圀 …月形龍之介
松平 頼常 …中村錦之助
佐々木助三郎 …東千代之介
渥美格之進 …里見浩太朗
お は る …丘 さとみ
大田屋伝兵衛 …大河内傳次郎
佐伯 将監 …山形 勲
中川与惣右衛門 …進藤英太郎
鞆 江 …美空ひばり
伊 之 吉 …大川 橋蔵
ものがたり
神田の丹前風呂へ下情視察に出かけた黄門さまは、我が子の高松藩主・松平頼常が狂気との噂を聞き、助さん格さんの2人を連れ、急遽東海道を下った。
はたして、高松城では藩主・頼常に狂気と思われる言動が多く、これを機にお家騒動を企む城代家老・佐伯将監一派の陰謀が進められていた・・・
若手スター総出演
月形龍之介さんの水戸黄門シリーズ第12作目。片岡千恵蔵、市川右太衛門の両御大こそ出演しませんが、若手スター総出演の豪華な顔ぶれで、唄あり、踊りあり、笑いありのそれぞれの持ち味を活かした楽しい作品となっています。配収2億2581万円。当時の東映時代劇の絶好調振りがしのばれます。
橋蔵さんは板前で、実は公儀の隠密の伊之吉。歯切れの良い江戸っ子ぶりを見せています。助さん格さんには東千代之介、里見浩太朗のおふたり。どちらかというと悪役の多い進藤英太郎さんが善役にまわり、浪花の商人に扮し、橋蔵さんと軽妙なやりとりを繰り広げています。
私にとって水戸黄門といえば月形龍之介さん。それに進藤英太郎、大河内傳次郎の両ベテランが画面を引き締め、美空ひばり、丘さとみさんが華を添えています。
中村錦之助さんの狂人ぶりも見どころのひとつでしょう。
兄をさしおいて藩主に
水戸黄門でお馴染みの徳川光圀(1628年7月11日―1701年1月14日)は江戸時代、常陸国水戸藩第2代藩主。初代藩主・徳川頼房の3男で、母は側室の谷久子。母の身分が低かったことと、頼房がまだ正室を迎えていなかったことで堕胎を命じられたのを、三木之次、武佐夫妻のもとで密かに出産、育てられました。
寛永9年(1632)、兄頼重と光圀の存在が明らかになり、水戸城に入城。翌年11月、世子に決定されています。
承応3年(1654)、前関白近衛信尋の次女・尋子(秦姫)と結婚。駒込邸に史局を設置し、紀伝体の歴史書『大日本史』の編集作業に着手。のちに小石川に移し、彰考館としました。
寛文元年(1661)8月19日、常陸国水戸藩28万石2代藩主となり、元禄3年(1690)、藩主の座を綱條に譲り、西山荘に隠棲するまでの藩主時代には、笠原水道の設置、寺社改革、殉死の禁止、快風丸建造による蝦夷地の探検などを行いました。古典研究や文化財の保護活動にも熱心で、修史事業に着手した「大日本史」は光圀の死後250年経った明治時代にようやく完成。後の水戸学、歴史学の形成や思想的影響を与えました。
隠居後、藩医・穂積甫庵に命じて、救民妙薬を編集し、薬草から397種の製薬方法を記させています。
光圀は兄頼重をさしおいて藩主になったことを悔やみ、兄の子綱方を迎え世継ぎにしましたが、早世したため、その弟綱條を養子に迎え水戸藩を継がせています。
逆に光圀は側室との間に生まれた実子頼常を兄の養子に出しています。こうした史実をもとにこの『天下の副将軍』では頼常を狂人に仕立て、それにお家騒動をからめて、物語が構成されています。
また、翌年1960年の『水戸黄門』では橋蔵さんが中将綱條を演じています。
学級肌で好奇心旺盛
光圀は学級肌で好奇心が旺盛な人だったらしく、日本の歴史上、光圀が最初に食べたものに、ラーメン、餃子、チーズ、牛乳、黒豆納豆などがあり、生類憐みの令を無視して、牛肉、豚肉、羊肉などを食べていたといわれています。野犬20匹(一説には50匹)を捕らえて、綱吉に献上した話は57年の『水戸黄門』に登場します。綱吉時代には徳川一門の長老として、幕政にも影響力を持っていました。
黄門漫遊記でお馴染みの白髭と頭巾姿で諸国を歩いた事実はなく、実際には日光、鎌倉、金沢八景、房総のみで、関東地方から出たことはないようです。藩主時代からの名君伝説と、編集資料集めに家臣を派遣したこと、隠居時代、水戸藩領内を巡視したことから庶民の夢が形作られたということなのでしょう。
日本最古といわれるオランダ製のメリヤスの足袋を履いたり、ワインや朝鮮人参、インコを取り寄せ、吉原近郊の浅草界隈で手打ちうどんの技術を身につけるなど、話題に事欠かない人だけに、多くの物語が生まれたように思われます。(Wikipedia)
吉原をさびれさせた湯女風呂
江戸時代の銭湯は江戸庶民の社交場として栄え、朝から沸かして夕方六つ(午後6時)に終わるのが普通でした。
江戸時代前期は湯女が客の背中を流したり、湯茶サービスをする「湯女風呂」が流行しました。特に人気のあったのは西神田雉子通りの堀丹後守の屋敷前にあった「丹前風呂」で、勝山という名の湯女が大変な人気で、「丹前の湯はそのころ皆のぼせ」と川柳に詠まれたほどでした。全盛期には吉原もさびれるほどのにぎわいだったといわれています。
『洞房語園抄語』に「寛永13年(1636)のころより、町中に風呂屋というもの発興して、遊女を抱えおき、昼夜の商売をしたり。これよりして吉原衰微しける也」とあり、浮世絵にも英一蝶伝といわれる丹前風呂の絵が残されています。
風紀上、幕府はたびたび禁止令を出しましたが効き目はなく、元禄16年(1703)、江戸を襲った震災が引き金となって湯女風呂は自然消滅していきました。
天保(1830―44)の頃になると、入浴後、2階にある広間に上がり、茶を飲んだり菓子を食べたり、囲碁や将棋を楽しんだりする、町のサロンとしての「二階風呂」が盛んになりました。(東京都浴場組合HP、江戸の湯屋)
この作品では湯女風呂と二階風呂がミックスされて登場、黄門さまは碁をさしながら、我が子頼常の噂を耳にするのです。
瞳の奥の哀しみ
中村錦之助さんは頼常役で狂人を演じ、相変わらずの芸達者ぶりをみせています。屋根に上ったり、狐の真似をして家臣の頭を扇で叩いたり、気が触れているといっても何ともあどけなく、童子がそのまま大人になったようで、思わず微笑みたくなるような狂乱ぶりです。
橋蔵さんも『恋や恋なすな恋』、『炎の城』などで狂人役を披露していますが、橋蔵さんが演じる物狂いは目の奥に哀しみが漂っていて、見ていて痛々しい感じがするのに、錦之助さんにはそれがありません。気が触れていても錦之助さんの瞳の奥には希望や明るさが感じられるのです。
その差は一体どこから来るものなのでしょうか。芸質の差か、顔立ちや生い立ち、生活環境からなのか、狂乱役の橋蔵さんを見るとき、ぬぐいきれない心の哀しみを橋蔵さんの瞳の奥に感じ、こちらまで切なくなってしまうのですが・・・
映画の中で、橋蔵さんは包丁1本で旅から旅へ渡り歩く板前を演じていますが、昭和35年(1960)、「包丁1本さらしにまいて 旅に出るのも板場の修業」と藤島桓夫さんの甘い歌声と台詞で一世を風靡した『月の法善寺横町』(作詞・十二村哲 作曲・飯田景応)を思い出します。映画は扮装こそ時代劇でも、製作された世相を映し出しているということなのでしょう。
(文責・古狸奈 2011・5・30)
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