「紅顔の密使」

 

「紅顔の密使」

     (195969 東映京都作品)

  原作・千葉省三(「陸奥の嵐」)

  脚本、監督・加藤 泰

 

  <配 役>

   小田の武麿 …大川 橋蔵

   狭 霧   …一条 由美

   赤 鷲   …田崎  潤

   夜叉姫   …故里やよい

   照日の王子 …伏見扇太郎

                    悪露王   …吉田 義夫

ものがたり

 原題は千葉省三原作の『陸奥の嵐』。橋蔵さんが少年時代、夢中になって読んだという冒険物語の映画化です。

 延暦19年、陸奥の国に悪露王の叛乱が起き、勢力を拡大していました。叛乱軍の勢いは止まらず、唯一胆沢城が叛乱軍をくいとめているだけでした。

 朝廷の密使・小田の武麿が父親を捜しに旅をする狭霧を助けながら、叛乱の起こった陸奥の国に潜行するスリルに富んだ雄大なロマンです。

 悪露王の手下、赤鷲との決闘場面など、今までの時代劇とは一味も二味も違う、迫力満点の大活劇が展開します。

 

850年型ニュールック

今回の時代背景は平安時代。まずは衣装にご注目。

橋蔵さんの衣装は、烏帽子まがいの天正頭巾をかぶり、上衣はサックドレスのような首上げ、吊り下げ袴で、足はワラのゲートル、草鞍といういでたち。平安時代の旅人のスタイル。いってみれば、1150年以上も前の850年型ニュールックです。

また、悪露王の手下、赤鷲の愛人夜叉姫の衣裳は、金粉銀粉を散らしたレースのシャツに黒タイツ、バックスキンの靴、ペンダントにイヤリングという時代劇らしからぬ服装で、ピーターパンかジャンヌダルクとでもいえそうなスタイル。夜叉姫のエキゾチシズムと妖艶さを際立たせています。

清純な狭霧役の一条由美さん、念願の十二単衣が着られて大喜びだったとか。

 

新型十字剣法

手にする武器も刀ではなく、そりのない両刃の短剣や長剣、二つの剣を両手で十字に交差させた新型十字剣法が登場。フェンシングのように打ちつけたり、突き出すような立ち回りです。

鉈投げ対決や船の甲板での決闘は鎖や滑車が武器。取っ組みあいの格闘場面では普段の立ち回りと勝手が違い、生傷が絶えなかったようです。

 

泥んこロケーション

胆沢城の撮影は饗庭野に万里の長城のような広大なオープンセットを作って行なわれました。高さ4メートル、面積は1000坪、100人がゆうに動き回れる広さです。

この饗庭野は琵琶湖北側に位置する40キロ四方の荒野で、自衛隊の演習場。京都から日帰りが可能なので、東の富士の裾野とともに時代劇の合戦シーンでよく使われる所なのだそうです。

饗庭野ロケは泥んこロケーションといわれるほどのロケの難所。雨が降ればくるぶしまで沈むぬかるみとなり、ロケ班泣かせなのだとか。

この胆沢城の攻防戦で使われた新型兵器が、人力稼動で木製の、投石器、石火弓、撞木車・・・大きな石をバネで飛ばしたり、丸太をぶつけて城の門の扉を打ち破ろうとしたり、見ているだけで楽しくなってしまいますね。

 

赤鷲との対決

今回の作品では何度かある田崎潤さん演ずる赤鷲と小田の武麿との対決シーンが見もの。

まずは鉈での腕比べ。結局これで武麿の素性がばれてしまうわけですが、船の上での格闘シーンは滑車や鎖を使っての壮絶な戦い。船の揺れは大型扇風機と人力によるものとか。最後の櫓の上での決闘も迫力満点です。

 

妖艶な夜叉姫の魅力

清純な狭霧と妖艶な夜叉姫。2人のヒロインがこの映画に花を添えています。

特に夜叉姫は普通の時代劇には見られない強烈な個性を発揮しています。

雷雨にあい、谷底に落ちたところを武麿に助けられ、ひそかに恋心を感じ始めた夜叉姫。捕らえられた武麿のもとに忍び込み、「助かりたくないのか」と、強引に自分になびかせようとする迫真の演技に、橋蔵さんもタジタジ。

胆沢城に赤鷲とともに偽密使で入り込み、酔いつぶさせようと、酒宴で官能的に踊る夜叉姫・・・篝火の光が薄絹を通して、すけて見える身体の線・・・挑発するように足をあげ、一枚一枚薄絹のベールをはずしながら、妖しげに舞い続ける夜叉姫の、瞳から放たれる蠱惑的な光・・・思わず目を背ける照日の王子・・・

ビキニの水着でも、ヌードだと大騒ぎした時代。時代劇でここまでやるか、と思ったものでした。

すべてが異色の『紅顔の密使』、橋蔵さんの新たな魅力が見出された作品です。

 

 

                        (文責・古狸奈 2010417