「新吾十番勝負」第3部
「新吾十番勝負 第3部」
(1960・3・27 東映京都作品)
原作・川口松太郎
脚色・川口松太郎 中山文夫
監督・松田 定次
<配 役>
葵 新吾 …大川 橋蔵
お鯉の方 …長谷川裕見子
お 縫 …大川 恵子
綾 姫 …佐久間良子
おきく …青山 京子
真崎庄三郎 …岡田 英次
武田一真 …月形龍之介
徳川吉宗 …大友柳太朗
ものがたり
晴れて親子対面の儀がかない、東海道箱根路に入ったとき、何者かに発砲された新吾は、数日後、武芸を売りものにする旅の一座、藤井一家に加わっていた。その一家がやくざの出入りの助太刀に加わった先で、武田一真に出会う。2人は日を改めて対決をするが、新吾は一真に敗れてしまう。
綾姫の看護を受けて快方に向かった新吾は剣の道を求めて、中部の山岳地帯に足を入れた。そこで、少年小猿の次郎の口から新吾の名をかたる者がいることを知る・・・
一真に敗北
第2部で師、梅井多門を失った新吾が宿敵、武田一真との対決を心に秘め、修行する姿を追いながら、親子対面の成り行きを絡ませ、6番勝負から8番勝負までが展開していきます。
新吾を亡き者にしようとする姦計から、二条殿柳生道場での練習試合で宗田豊之進のただならぬ殺気に、はからずも相手を倒してしまう6番勝負。7番目はようやく巡り会った武田一真に敗れてしまう明神池の対決。8番目は新吾を敵と狙い、名を騙る柳生派との小松が原の決闘。負けを知らない新吾がこの第3部で唯一、武田一真に敗れてしまうのです。
激しい決闘場面の合い間に、お鯉の方や吉宗の親としての情愛や、仏僧の教え、剣に修行する姿などが描き出され、新吾の人間としての成長ぶりもあわせて追っていきます。第3部での新吾は一真に対しても逸る気持ちの方が強く、まだ人間として成長していないことがわかります。
新吾を思うそれぞれの形
新吾を陥れようとする反対派の謀略で、吉宗のもとには新吾の行動が正しく伝えられないため、その都度、心配するお鯉の方の母親としての情。
「丸さまは評判がよすぎるから、反対派は心配なのです」と弁護するお縫。
「あなたなら何でもできるはず」とお鯉の方に詰め寄られて、「わしは将軍なのだ。父になりきれぬのだ」と父親としての情を完全に押さえ込もうとする吉宗。
それぞれがそれぞれの形で、新吾を思う気持ちが伝わり、この作品の情感を高めています。
運命に逆らわず
親子対面の儀がかない江戸に向かう宿で、将軍との面会を喜ばない人たちの存在を感じ、このまま行っていいのだろうか、と躊躇する新吾に、「与えられた運命に逆らうな」と諭され、その後の箱根路で発砲された新吾。「運命に逆らわず」馬の疾走にまかせて行方不明。やがて藤井一座に。見落としそうな場面ですが、その後の新吾の行動への伏線が張られています。
新吾に発砲した銃の名手、由比三之助役の片岡栄二郎さん。射撃の腕前は玄人なんだとか。「本気でやったら、橋蔵さん、生きていないよ」ですって。ああ、こわ。
大物スターの新人時代
新吾がいなくなったことを綾姫に知らせに来た腰元が、三沢あけみさん。前年ニューフェース合格。この作品では配役にまだ名前はありません。
少年小猿の次郎役の住田知仁君、のちの風間杜夫さん。東映児童演劇研修所1期生で、達者な演技を披露しています。橋蔵さんも「住田君に負けちゃいそうだよ」と記しています。後に銭形平次も演じておられますし、橋蔵さんとのご縁は深かったのですね。
おきく役の青山京子さんのかわいらしいこと。旅の武芸一座の紅一点。素朴でうぶな感じがいいですね。
親子の心の葛藤
完結篇へと繋がる第3部。数奇な運命をたどる新吾の行動や心の動きにも、さりげなくきっかけのようなものが仕掛けられていて、闇雲に事件を起こさせる今までの時代劇とは違っていることがそれだけでもわかります。原作のよさに加えて、橋蔵さんの新吾はまさに適役で、50年経っている今日でも色あせることなく、見る者に感動を与えます。
小松が原の決闘のあと、多くの人を傷つけてしまったわが子に、将軍ゆえに父親としての情を殺し、面会を許さない吉宗。その父親の気持ちがはかれず、愛されていないのでは、と傷心の思いで城を抜け出す新吾・・・親子の心の葛藤が見る者に迫ってきます。新吾の行く手には武田一真の姿がちらつき、険しい道のりを暗示して・・・
第3部はビデオもオリジナル全長篇なので、物語の展開もきめ細やかで、この一作だけでも充分楽しめます。
(文責・古狸奈 2010・8・21)
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