「おしどり囃子」

 

「おしどり囃子」

    1956511 東映京都作品)

  原作・村上元三「花見獅子」 

  脚本・八尋不二 

  監督・佐々木康

 

  <配 役>

   菊 次  …大川橋蔵

   おたね  …美空ひばり

   伝兵衛  …有馬宏治

   能見三之丞…明石 潮

   総右衛門 …高松錦之助

                    大庭中務 …阿部九州男

ものがたり

れっきとした旗本の血を引きながら、股旅姿にまで身をやつすお神楽菊次と、おきゃんで鉄火な小町娘おたねが、策謀で詰め腹を切らされた親の仇を討つまでの物語。

 

この『おしどり囃子』は橋蔵さんがデビューしてから、映画出演5作目。映画界入りを決心して第1作目の作品です。ひばりさんとのコンビも『笛吹若武者』、『旗本退屈男』に次いで3回目。トミイ・マミイのおしどりコンビもすっかり息があって、人気急上昇。黄金コンビが定着しました。

 

凛々しい神楽舞

映画が始まるとすぐ、場面は三社祭に奉納する宮神楽の舞台が映し出されます。橋蔵さんの凛々しい舞い姿。親は旗本ながら妾腹の子として生まれたばかりに、土師流家元総右衛門に預けられ、いまや次期後継者と言われるまでに成長した、宮神楽師菊次が橋蔵さんの役どころです。ふんだんに神楽舞が見られるのも楽しみのひとつ。

総右衛門に稽古をつけてもらうところなど、6代目尾上菊五郎さんに教えを受けていたころの橋蔵さんを彷彿とさせます。

菊次の役は、映画界入りしてまだ間もない橋蔵さんに無理なく、映画に移行してもらうための橋蔵さんの個性を最優先した役設定の配慮が感じられます。

 

小町娘おたねと菊次

本当は好きあっているのに、会えば喧嘩ばかりしてしまう料亭「琴川」の小町娘、おたねがひばりさん。おきゃんで鉄火で、それでいて純情一筋のおたねの役はひばりさんの魅力を充分に引き出しています。菊次をたずねての娘の一人旅。いじらしいほどでしたね。

いつの世にもいじめはあるらしく、新番所入りした父親の能見三之丞の接待の席で、「江戸一番の獅子舞を見せろ」と難題をふっかけられ、舞えば破門になる厳しい掟を覚悟で、実父のために一世一代の獅子舞をみせる菊次。

結局、それがもとで破門。「喧嘩相手のいない旅は淋しかろう」との言葉を残して、菊次は旅の空へ。しかし、父親の能見三之丞は濡れ衣をきせられ、詰め腹を切らされてしまうのです。

その報を一刻でも早く知らせようと、おたねは旅に出るのですが、これが今一歩というところで会えない。橋の上と下でのすれちがい。

 

芸ふくろ

この菊次は、堅気とやくざの中間をいくデリケートな役で、感情のあやの表現に苦労したとか。どう演じてよいかわからないときは、その人物の気持になりきること。

「映画と舞台の演技では表現の仕方がまるっきり違う。でもお腹の中は同じ。役の性根をつかめ、ということをおやじさん(6代目)に、さんざん言われたけれど、それがいま役立っています。型よりも性根、下手でもよいから性根ははずすな」と橋蔵さんは語っています。

ところどころに歌舞伎の癖が抜けきれず、演技も立ち回りもまだおぼつかなさが残っていますが、1作ごとに急速な進歩を遂げているのがよくわかります。「役者は芸ふくろをこやさなければいけない」と、常に努力していたという橋蔵さん。

中村錦之助、東千代之介、伏見扇太郎に次ぐ第4の新人としてデビューした橋蔵さんが、この『おしどり囃子』の頃にはすでにトップをうかがうほどに人気が急上昇したのも、ただ顔がいい、ということだけではなさそうです。

 

50年ぶり念願達成

この『おしどり囃子』は封切り当初、見ることはできず、昨年、ようやく念願達成。スクリーンではなく、我が家のテレビ画面でしたが。

そのときの第一印象、橋蔵さんの何とまあ、若くてかわいらしいこと!

子供のころ、素敵なお兄さまだった橋蔵さんを、かわいいって感じるなんて。50年の歳月は過酷ですね。

何はともあれ、橋蔵さんのデビュー当時の初々しさを堪能させてもらい、橋蔵さんはスクリーンに映っているだけで、絵になるスターだと改めて感じたことでした。

 

                        (文責・古狸奈 2010418