「海の百万石」
「海の百万石」
(1956・9・11 東映作品)
原作・舟橋聖一(東京新聞連載)
脚本・舟橋和郎
監督・内出好吉
<配 役>
銭屋五兵衛 …片岡千恵蔵
おまさ …長谷川裕見子
要 蔵 …大川 橋蔵
おきね …三浦 光子
おてつ …千原しのぶ
お 才 …花柳 小菊
大原伴右衛門…進藤英太郎
ものがたり
加賀の小さな商家の若き主、銭屋五兵衛は、権力をかさに横暴に振舞う大原伴右衛門の姿に、町人は金を持つことが対等になれる術と考え、海運業に乗り出す決心をする。
やがて苦難を乗り越え、交易先を広げていった銭屋五兵衛は豪商として名をあげ、「海の百万石」と称されるようになった。しかし、銭屋を目の仇とする大原は五兵衛を陥れようと機会をうかがっていた・・・
銭屋五兵衛
この物語のモデル、銭屋五兵衛(1774―1852)は江戸時代後期の加賀の商人、海運業者。銭屋の7代目で、もともとは両替商、醤油醸造、古着商などを営んでいたが、39歳のころ、質流れの船を調達して海運業を再開。宮腰が北前船の重要な中継地だったことから、米中心に商いをし、千石船は20艘以上、所有していた船は200艘に及び、全国に34の支店を持つに至ったという。
藩の資金調達の見返りに、加賀百万石の御用船としての永代渡海免許状を取得、当時ご禁制だった密貿易も行なったとされ、礼文島に「銭屋五兵衛貿易の地」碑がある。
新田開発にも熱心に取り組み、河北潟(かほくかた)干拓工事を始めたが、難工事だった上に、伝染病の流行は、銭五が流した毒薬によるものとの噂が流れ、子らと共に投獄され、獄死した。(享年80)
銭屋の財産は没収、家名は断絶となった。日米和親条約の2年前のことである。
ライバルとの商戦、船の難破の苦労など、銭屋の商業記録は五兵衛の日記、『年々留』に詳細に記されている。
銭屋悲願の河北潟干拓工事は100年後の昭和28年(1953)、再開され、283億円の工費をかけて、昭和60年(1985)完成した。
現在、旧宅の一部が「銭五の館」、隣接して「銭屋五兵衛記念館」が公開されている。
(Wikipedia、銭屋五兵衛記念館)
北前船
北前船は一航海をおよそ1年かけて運航。
4月に大坂を出、瀬戸内海、日本海の寄港地で商いをし、6月、蝦夷で買い付け、7-8月、大坂に向けて出帆、冬に大坂に戻ってくるようになっていました。
行きは米、塩、砂糖、紙、木綿などを積み、帰りは昆布、ニシンなどの海産物、〆粕などを積んできました。「千石船一航海、利益千両」といわれ、下り荷300両、上り荷700両の利益が上がったといわれています。物語の舞台、加賀の宮腰は北前船の重要な中継点でした。
銭屋の若旦那、要蔵
銭屋五兵衛には実際には3人の子どもがいたようです。長男、喜太郎(俳号、霞堤・荷汀)、次男、佐八郎(素由、曽由)、三男、要三(路堂)で、いずれも俳句などをたしなみ、銭屋の家族は文化的にも高いものがあったようです。
橋蔵さんは銭屋の子供たちを代表して、一人息子要蔵の役。物語が銭屋五兵衛の一代記なので、要蔵の幼年時代にもいろいろ事件は起きるし、橋蔵さんはなかなか出てこないんですね。まだかまだかといった感じで、映画が始まってから40分後に登場。
でも待ったかいあって、登場したとたん、橋蔵さんの今までとは全く違った役柄の新鮮さに引き込まれてしまいました。
商人といっても豪商の跡継ぎは乳母日傘で育てられるわけで、橋蔵さんの持つ気品や清々しい雰囲気がまさしく商家の若旦那。育ちのよい素直な2代目ぶりで、新しい魅力を発見しました。
このような商家の若旦那役は他にはなく、西鶴ものや鴻池といった豪商の物語など、面白いものが出来たのではないかと思ったことでした。
封切り時に見逃して、前々から見たいと思っていたのがようやく叶い、それも期待通りだったので、大満足。でも、子どものときに見ていたら、案外、立ち回りのない若旦那より、颯爽とした若さまの方がいい、なんて言っていたかもしれません。50年の歳月はものの見方を変えるようですね。
白浜ロケで声からし
最後に、要蔵とおてつが、海に向かって「お父うーっ」と叫ぶ場面の撮影は、白浜で行なわれました。2人のポーズがよくないと、監督はじめ千恵蔵さんまで飛び出して、ああでもない、こうでもない。とうとう本番のときは皆声をからしてしまい、「水、水、水」・・・
(文責・古狸奈 2010・5・17)
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