「旅笠道中」
「旅笠道中」
(1958・4・1 東映京都作品)
原作・比佐芳武「小説倶楽部」
脚本・比佐芳武
監督・佐々木康
<配 役>
草間の半次郎 …大川 橋蔵
おもん …千原しのぶ
おちか …花園ひろみ
み ね …浪花千栄子
松川の源次郎 …尾上鯉之助
どろんの新助 …山茶花 究
聖天の虎五郎 …小沢栄太郎
ものがたり
弟分の源次郎を堅気にして、国の母や妹のもとに帰らせようと、兄弟分の縁を切った半次郎だったが、おもんに利用されただけだと知った源次郎は意地になって、国許には帰らず旅を続けていた。
一人旅を続ける半次郎は泊まった先の一宿一飯の恩義のため、助っ人に出て、誤って源次郎を斬ってしまう。
源次郎の死を知らせに行った半次郎は、源次郎の妹、おちかに頼まれ、身代わりに盲目の母に仕え、孝行の真似事をするのだった。
そんな折も折、祭礼の賭場に源次郎の家が使われ、虎五郎はおちかに目をつける・・・
毎回独立した物語
この『旅笠道中』は橋蔵さんの草間の半次郎シリーズ、第2作目。『喧嘩道中』から1年ぶりの登場です。
この草間の半次郎シリーズは主人公の名前は同じでも、前後の作品との関連性はなく、毎回独立した物語となっているのが特徴です。
今回の作品では、兄弟分を間違って斬ってしまい、その身代わりとして国許の目の見えない母親に孝行をし、妹の危難を助けるという人情話となっています。
「身請」と「足抜き」
江戸時代、茶屋や遊郭などで働く芸娼妓は貧しい農家の出身が多く、大抵は前借金で拘束され、年季という約束の期限が来るまで、無条件で働かなければなりませんでした。
年季が明ける前にやめるためには、「身請」(みうけ)といって、前借金と身代金をあわせた身請料を払う必要がありました。当時、身請には下のクラスの梅茶女郎で40―50両、吉原の松の位の太夫で1000両の金が必要だったようです。天明の頃、江戸新吉原の松葉半左衛門は26年間に2代目から4代目の瀬川が次々と身請され、5000両もの富を得たと言われています。4代目瀬川の身請料は1500両にもなり、遂に上限500両という制限が出たほどでした。(Wikipedia)
そうした身請をせず、芸妓や娼妓などが前借金を清算しないで逃げることを「足抜き」といい、源次郎がおもんの足抜きの手助けをしたことを知った半次郎が怒って、兄弟分の縁を切る理由のひとつになるのです。
半次郎は源次郎がやったことに腹を立てながらも、好きな女と国許に帰り、母や妹と暮らす方が良いと思い、兄弟分の縁を切るのですが、おもんが本当に好きな相手は半次郎で、利用されただけと知った源次郎はやけを起こし、そのまま旅を続けてしまいます。そして皮肉な運命が待ち受けているのです。
「一宿一飯の恩義」の悲劇
股旅物によく出てくる「一宿一飯の恩義」。
旅の渡世人が泊めてもらった先で、やくざの出入りがあったときに、泊めて食べさせてくれたお礼に喧嘩の助太刀をしなければならない仁義のことで、縁もゆかりもない、怨みもない相手と闘い、その結果、さまざまな悲劇が生じました。『沓掛時次郎』はじめ、多くの作品に取り上げられています。この作品では半次郎は相手方に源次郎がいるとは知らず、誤って斬ってしまうのです。
カメラがとらえた表情の変化
源次郎の盲目の母親を演じる浪花千栄子さん。おちかに「兄さんが帰ってきた」と告げられ、最初はからかうなと笑っているのが、人の気配に嘘ではないと知り、みるみる表情が変わっていきます。この表情の変化がみごとです。母親の情が痛いほど伝わってきて胸を打ちます。
花園ひろみさんはおちか役を好演。新人とは思えない堂々とした演技ぶり。その後、橋蔵さんとは多くの作品で共演しました。
挿入歌は三波春夫さん。この作品では歌声だけでなく、自身も出演しています。三波さんの明るい声の質が似合う作品です。
橋蔵さんも渡世人姿がすっかり板につき、颯爽とした男っぷり。堅気の楚々とした姿は対照的に端正な静の美が漂います。型にとらわれないやくざ剣法で、ワイドスクリーンの画面狭しと暴れまくります。
(文責・古狸奈 2010・9・17)
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