「丹下左膳 怒涛篇」

 

「丹下左膳 怒涛篇」

  195913 東映京都作品)

  原作・林不忘 

  脚色・中山文夫

  監督・松田定次

 

  <配 役>

   丹下左膳  …大友柳太朗

   伊吹大作  …大川 橋蔵

   お  藤  …長谷川裕見子

   ちょび安  …松島トモ子

   鼓の与吉  …多々良 純

   将軍吉宗  …里見浩太朗

   大岡越前守 …月形龍之介

 蒲生泰軒  …大河内傳次郎

 愚楽老人  …薄田 研二

 お  艶  …桜町 弘子

 

 弥  生  …大川 恵子

ものがたり

 その昔、大海賊張鬼竜が隠した財宝のありかを示す、金竜、銀竜の香炉のうちの一つ、金竜がそれを知らぬ将軍の手から柳生に下しおかれた。

 柳生が香炉の秘密に気づかぬうちに、と大岡は配下の与力・伊吹大作とはかり、鼓の与吉を使って、金竜を奪還。しかし、与吉は豊臣の残党一味に襲撃されて、トンガリ長屋に逃げ込んだ。

 香炉を狙う一味を探るため、大作はとび職にばけて、左膳の住むトンガリ長屋に・・・ 

 

豪快で明るい左膳

1958年3月に封切りされた『丹下左膳 決定版』に続く、大友柳太朗さんの左膳を主人公にした「丹下左膳」シリーズ第2弾。59年の初頭を飾るお正月作品として、セミオールスターの豪華な配役で製作されました。

もともとはニヒルで暗いタイプの左膳を大友柳太朗さんは豪快に明るく、長屋の子供たちに好かれる小父ちゃんとして演じ、大友さんならではの左膳を創り上げています。

長谷川裕見子さんのお藤、松島トモ子さんのちょび安のレギュラーのほか、この作品では橋蔵さんが南町奉行与力・伊吹大作で出演。「丹下左膳」シリーズで2人が共演すれば、必ず見られる対決場面が迫力満点です。豪快な大友さんの剣と華麗な橋蔵さんの剣、時代劇の立ち回りの醍醐味が味わえます。

大友さんは斬られ役の剣会の役者さん泣かせだったとか。撮影前、殺陣師と打ち合わせをしていても、本番になるとまるっきり違う動きをみせ、危なくて仕方なかったとか。生傷がたえず、懐に座布団をしのばせ、本番に臨んだと言われています。

つまるところ、あの大友さんの豪快な殺陣を受けて立つことのできた剣会のメンバーの存在が、東映時代劇の面白さを盛り上げていたことは間違いありません。

 

ドキドキしながら拍手喝采

100両払ってくれるというので、相手を疑うことなく香炉を渡してしまい、窮地に陥る左膳。底抜けのお人好しには呆れてしまいます。しかし、そのお人好しぶりが片目片腕という異形の主人公でありながら、映画全体に明るさと楽しさを醸し出しているのです。観客は単純に騙されてしまう左膳にハラハラドキドキしながら、一方でめっぽう強い左膳に拍手喝采をおくるのです。

東映時代劇全盛期の、家族揃って楽しめる娯楽時代劇の王道を行く作品といえるでしょう。やがて、こうした作品はお茶の間のテレビ時代劇にかわり、映画は斜陽化していきます。

映画界の全盛期は57年がピーク。59年になると、映画界全体では陰りが見えはじめていましたが、大勢の人気スターを抱える東映は快進撃を続けていたのです。

 

お藤の粋な魅力

松島トモ子さんのちょび安を中心とした長屋の子供たち。トモ子さんは当時、子役から少女役への転換期にさしかかっていました。大きな目をくりっとさせて歌う国民的アイドル歌手もすでに14歳。映画でも子役として大活躍していましたが、ちょび安のような男の子役はちょっときつくなってきていました。それでも他の子供たちをうまくまとめて、演じきっています。

大友柳太朗さんと長谷川裕見子さんのコンビは健在。長谷川さんのお藤の粋なこと。お鯉の方とは全く違った魅力です。

大岡越前守は月形龍之介さん。蒲生泰軒は大河内傳次郎さん。ベテラン2人が脇をがっちり固めて、画面を引き締めています。吉宗役の里見浩太朗さん、お若いですね。

我らが橋蔵さんの恋人役は今回は桜町弘子さん。大作がとんがり長屋で親しくなるのがお艶。おかげで弥生役の大川恵子さんはふられ役。今回も橋蔵さん、相変らずのモテモテぶりです。

 

正月作品らしく、悪党一味を退治した後は、宝を探しに長屋の住人を乗せた千石船は島へと出帆。59年のめでたい年明けとなりました。

 

 

(文責・古狸奈 2013520