「花笠若衆」

 

「花笠若衆」

     (195863 東映京都作品)

原作・加藤喜美枝

  (「平凡」連載・同人社刊) 

脚色・中田竜雄

監督・佐伯 清

 

<配 役>

江戸家吉三、千代姫 …美空ひばり

江戸家吉兵衛   …大河内傳次郎

金  八      …星  十郎

牧野内膳正     …明石  潮

早  苗      …桜町 弘子

田島主馬      …沢村宗之助

稲垣玄蕃      …吉田 義夫

             神月又之丞     …大川 橋蔵

ものがたり

花のお江戸は吉原。花魁道中見物の町娘に言いがかりをつけた白鞘組を、颯爽とさばいた江戸家吉三。男の身なりをしているが、実は但馬の扇山藩牧野内膳正の息女、雪姫。双子を忌み嫌う風習から江戸家吉兵衛の2代目として育てられていた。

そのころ、扇山藩ではお家騒動が勃発。千代姫の許婚、神月又之丞のもとに使者が・・・書状には雪姫探索と事態の収拾を頼む文面が認められていた・・・

 

ママの原作を娘が主演

この『花笠若衆』は昭和2351日、横浜国際劇場でデビューしたひばりさんの芸能生活10周年を記念して製作されたもので、原作はひばりさんの母親、加藤喜美枝さんが「平凡」に連載、同人社から昭和321月、B6300ページで出版されました。

ひばりさんを陰になり日向になりながら支えてきた母親の喜美枝さんが、娘のために筆を取った作品で、「ひばりにやらせたい役」「ひばりがやりたい役」「ひばりのパーソナリティーを100%生かした役」を念頭に書かれたものだけに、ひばりさんの魅力が十二分に発揮されていて、ひばりファンには最高の作品といえるでしょう。

慣れない執筆に、何度も筆を折ろうとしながらも書き上げてくれ、映画化されたことに、ひばりさんは「ママが書いてくれた作品の映画化が10周年の最高のプレゼント」と語っています。

 

艶やかで気品漂う着流し姿

妹・千代姫の許婚で、姉・吉三(雪姫)に思いを寄せられる神月又之丞の役が橋蔵さん。映画が始まってすぐ、絢爛たる吉原の花魁道中にも負けない水色の地に花模様の艶やかな着流し姿で登場します。白鞘組のごろつき旗本を相手に、ロカビリー剣法で暴れまくる町奴姿のひばりさん。カラーでワイドスクリーンならではの醍醐味です。

ひときわ目立つ派手な衣裳で、ともすれば気障になりかねないのに、華やかな中にも気品さえ漂わせる橋蔵さんの着流し姿。ただただ美しい、としか言いようがなくて、この場面だけ見ればあとはどうでもいい、なんて思うのは私だけでしょうか。

 

ロカビリー剣法

当時はロカビリー全盛時代。山下敬二郎、平尾昌晃、ミッキーカーチスさんらがロカビリー3人男といわれ、19582月に第1回日劇ウエスタンカーニバルが開催されると、ロカビリー熱は最高潮、演奏を聴いて失神する女性ファンが続出し、連日のように新聞紙面を賑わせました。

この作品にもロカビリーが取り入れられ、米山正夫さんの作詞作曲で「ロカビリー剣法」が編み出されました。ひばりさんの江戸家吉三がリズミカルに歌いながら、白鞘組相手にバッタバッタと斬りまくります。

このロカビリー剣法、はじめての試みなので、殺陣師の足立伶二郎さん、殺陣に苦心。考案するのに3日かかったとか。とにかく陽気で軽快で、ひばりさんの立ち回りにあわせて、見ている方まで知らず知らず体が動いてしまうほど。

 

駕籠で行くのは新婚さん

夢の中で結婚した又之丞と吉三。婚礼も終え、駕籠での新婚旅行。黒繻子の襟元も粋なひばりさんの町娘と渋い町人姿の橋蔵さん。

駕籠での道行場面の撮影は、琵琶湖から流れる瀬田川にかかる大橋の大手の堤で行なわれました。駕籠に乗る2人は、このまま京都まで、などとご機嫌だったようですが、駕籠かき役の大部屋俳優さんたち、テストテストの連続で、ついにダウン。悲喜こもごもの撮影だったようです。

 

宿屋での食事の場面。橋蔵さんがひばりさんに「あーん」と食べさせようとして、橋蔵さんまで一緒に口があいてしまうのを見て、ひばりさんが大笑い。橋蔵さん、「せっかく気分出しているのに」

背中を掻いてあげたり、お熱い新婚さんぶりでした。

ちなみにおふたりの共演は8作目。息が合って当然かもしれませんね。

 

挿入歌の『花笠道中』(米山正夫 作詞・作曲)は巷でもヒットし、歌謡ベストテンの常に上位にランクされていたことを思い出します。

 

 

(文責・古狸奈 2010717