「幽霊島の掟」
「幽霊島の掟」
(1961・8・13 東映京都作品)
脚本・結束信二
監督・佐々木康
<配 役>
八木 半蔵 …大川 橋蔵
宋 桃 蘭 …美空ひばり
勇 作 …北大路欣也
伊 佐 吉 …松方 弘樹
乙姫の小平太 …丘 さとみ
美 鶴 …花園ひろみ
初 絵 …桜町 弘子
周 陽 伯 …近衛十四郎
呂宋屋滝右衛門 …月形龍之介
浜風の文次 …東千代之介
海蛇の麻之助 …鶴田 浩二
ものがたり
本土を遠く離れた竜神島は幕府の威令が届かず、悪徳と密輸の島と化していた。
船から降り立った浪人、八木半蔵は遊び人風の男、浜風の文次に声をかけられ、竜神島のボス、周陽伯一味の巣窟に連れ込まれた。島は周陽伯と呂宋滝右衛門が相対していた。
どちらからも用心棒にならないかと誘われる半蔵。密輸の仲買人、海蛇の麻之助からも誘いの手が・・・
無頼のまかり通る竜神島で、半蔵の拳銃が火を放つ。
マンネリ打破のお盆映画に
この『幽霊島の掟』は1961年の夏、お盆映画として製作されました。
それまでの正月・お盆映画は1957年1月に『任侠清水港』が上映されて以来、清水次郎長一家の活躍を題材とした「任侠」ものシリーズ、『水戸黄門』、『忠臣蔵』、『旗本退屈男』など、片岡千恵蔵、市川右太衛門両御大を中心にしたオールスター映画が作られてきました。
それらの作品はどれも億単位の興行成績をあげ、ファンを魅了してきましたが、ややマンネリ化した気分を一新しようと、この『幽霊島の掟』が企画されたのです。
大川橋蔵さんを中心に、美空ひばり、東千代之介、鶴田浩二、北大路欣也、松方弘樹、丘さとみ、桜町弘子さんといった豪華な配役で、普通の映画ならゆうに5本分の夢の競演となりました。
舞台は幕末の黒潮渦巻く南海の小島。あとは時代考証など一切気にせず、徹底的に観客に喜んでもらえる作品にしようと、制作方針を決定。荒唐無稽だが幻想的な、理屈は抜きの楽しい作品に仕上がっています。
国籍不明の凝った衣裳
まず、目を見張るのは出演者たちの衣裳。やや薄汚れた浪人風の橋蔵さんの八木半蔵以外は国籍不明な扮装ばかり。東千代之介さんの浜風の文次はトルコ人のような帽子にコザックのような衣裳だし、近衛十四郎さんの周陽伯はインドと中国が混ざったようないでたち。姑娘姿のひばりさんにやはり中国服の鶴田浩二さん。ウエスタンから飛び出したような松方弘樹さんの伊佐吉に、馬車引きスタイルの北大路欣也さんの勇作。そして、男装の麗人は丘さとみさん・・・
結局、侍らしい扮装で登場するのは橋蔵さんの八木半蔵と徳大寺伸さんの幕府の隠密、そして薩摩藩士だけ。建物も町並みも異国情緒たっぷりで、全てが時代劇としては型破り。現代劇を撮る気分で、と佐々木監督の指示のもと撮影が進められ、それだけにいたるところに新しい趣向が用いられています。
銃撃戦と立ち回り
いつも懐手をしている八木半蔵、いざとなったら2挺拳銃の早撃ち・・・
時代劇らしからぬ拳銃まで飛び出してくるこの作品、スターたちのガンさばきが見ものです。この際、6連発銃なのに弾込めしないで10発撃った、とか、密輸団の方が旧式の銃を使っている、とか野暮なことは言わないこと。
最後の銃撃戦のあとの立ち回り。普通現代劇ならば、弾がなくなったら、殴り合いや取っ組み合いで勝負をつけるところでしょうが、この作品では時代劇本来の立ち回りも存分に観られ、倍のお楽しみというところです。
ちなみにこの拳銃、普通の撮影ではモデルガンが使われますが、『鞍馬天狗』や『怪傑黒頭巾』、『東海一の若親分』では、大写しのときなど必要に応じて、警察から許可を得て、本物を借りてきたのだそうです。扱いは厳重で毎日、朝借りて夕方返す規則で、その間警官が撮影中、現場をずっと監視しているのだとか。
当時、東映では拳銃25挺、単発の小銃35挺のモデルガンを所持していたとかで、ひばりさん用に十手と拳銃が一緒にくっついている十手銃も考案されていたということです。
橋蔵さんが初めて見せるガンさばき。橋蔵さんの少年時代の夢が実現したような、ちょっと甘酸っぱい郷愁を感じさせられます。
3年ぶりの黄金コンビ
橋蔵さんとひばりさんのコンビは『花笠若衆』以来3年ぶり。相変わらずぴったり呼吸のあったコンビぶりを見せています。
オールスター作品以外、共演することのなかった東千代之介さんや鶴田浩二さんとの顔合わせも話題のひとつでしょう。
竜宮閣の庭で、丘さとみさんの手風琴にあわせて、ひばりさんの唄が流れる場面は、異国情緒の背景とあいまって幻想的な場面となっています。
片手に拳銃を持ち、片手に将軍様も飲んだことのない美酒をラッパ飲みする半蔵、今までみせたことのない橋蔵さんの豪快さです。
次の世代を背負うホープ、松方弘樹さんと北大路欣也さんのおふたりも若々しい演技をみせています。幽霊島に相応しい場所として日本海の東尋坊が選ばれ、断崖での決闘場面などが撮影されました。
最後は全ての身分が明かされてめでたし、めでたし。
普通は見られない凝った衣裳の数々、スターたちのガンさばきに立ち回り、ひばりさんの唄や竜宮閣で毎夜繰り広げられるショー・・・盛り沢山でサービス満点の『幽霊島の掟』は、最終的には密輸団が滅びる勧善懲悪の物語で、家族そろって楽しめる肩のこらない娯楽映画の決定版といえるでしょうか。
ちなみにこの作品、3億円以上の興行成績をあげたということです。
(文責・古狸奈 2011・9・15)
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