「大勝負」
「大勝負」
(1965・5・8 東映京都作品)
脚本・井上梅次/宮川一郎
監督・井上梅次
<配 役>
海野蛸十郎 …片岡千恵蔵
御嶽の仙太郎 …大川 橋蔵
堀 大和守 …大友柳太朗
市村花之丞 …高千穂ひづる
志 乃 …新城みち子
檜垣三右衛門 …大坂 志郎
新田の常吉 …天王寺虎之助
虎 五 郎 …多々良 純
ものがたり
博徒が我がもの顔に振舞う関八州の政道は乱れていた。幕府の威信を取り戻すべく、一計が案じられた。真岡に隠密が放たれたの噂は伝わり、博徒たちは騒然となった。
ちょうどその頃、真岡にやってきた女芸人市村花之丞一座。その用心棒を志願した田舎侍蛸十郎と旅鴉の仙太郎は橋の上で対決、代官所の役人に制されるのだった。
やがて町では女芸人一座の興行権を巡って、常吉と虎五郎が対立し始める。
一方、蛸十郎と仙太郎はそれぞれの組の用心棒になっていた。
そうしたある夜、仙太郎は太夫から仙太郎の父、前代官が失脚した原因は常吉の罠にかかったためだと聞かされる・・・
3ヵ月ぶりの橋蔵さん作品
『バラケツ勝負』が公開されてから約3ヵ月後に封切りされた橋蔵さんの出演作。前作の『バラケツ勝負』が不調に終わったため、予定されていた次回作がキャンセルとなって、久々の登場となりました。
監督は石原裕次郎さん主演の『嵐を呼ぶ男』の井上梅次氏。橋蔵さんとは『黒の盗賊』以来、2度目のメガホンです。
主演は海野蛸十郎役の片岡千恵蔵さんでしたが、橋蔵さんは蛸十郎と張り合う御嶽の仙太郎役で、堂々5分と5分。対照的な2大スターの個性を損なうことなく、痛快で楽しめる作品が出来上がりました。
千恵蔵さんが越後長岡藩士、海野蛸十郎の田舎侍ぶりを明るくとぼけて演じれば、橋蔵さんは元々は武家の出で、父親を失脚させた代官の檜垣三右衛門に恨みを持つ、ちょっと翳のある旅鴉。博徒2人を手玉にとるお色気たっぷりの高千穂ひづるさんの花之丞が絡んで、思わず笑ってしまう娯楽大作です。
悪代官はすぐに罷免
物語の舞台となった関八州は江戸時代、関東8ヵ国の総称で、相模(さがみ)、武蔵(むさし)、安房(あわ)、上総(かずさ)、下総(しもうさ)、常陸(ひたち)、上野(こうずけ)、下野(しもつけ)の8ヵ国。上野の岩鼻、下野の真岡と東郷に代官所が、常陸の上郷に出張陣屋が設けられていました。
代官は本来は本官を代理する人の呼称ですが、中世以降は所領を預かり、年貢収納をつかさどる者を代官と称し、江戸時代には幕府、諸侯の直轄地の行政、治安を担当した地方官を言うようになりました。
幕府代官は勘定奉行に属し、旗本から任命され、5―10万石を支配しましたが、中期以降は主として勘定所役人のほか、農民や代官所の属僚からも抜擢され、検地、検見、年貢収納、潅漑治水、人別や5人組の差配などの地方行政、治安、検察などを行ないました。代官の役高は150俵だったそうです。
当時、評判の悪い代官はすぐに罷免される政治体制になっていて、『水戸黄門』などの時代劇に出てくる、商人と結託して賄賂を貪るような悪代官が長期にわたって、代官を務めることはできなかったようです。過酷な年貢の取り立ては農民の逃散につながり、収入の減少になったからとされています。
そうした意味から、大坂志郎さん扮する檜垣三右衛門は江戸時代の代官の実像に近いのかもしれません。
代官の配下は手付と呼ばれる武士の身分の者が10名程度、手代と呼ばれる武家奉公人が数名で、関東近在の代官は江戸にとどまり、支配は手付が行なっていました。検地や検見、巡察、重大事件発生時のみ任地に赴いたということです。
共演作品7本
橋蔵さんと千恵蔵さんとの共演はオールスター作品を除き、『海の百万石』(56・9)、『はやぶさ奉行』(57・11)、『血槍無双』(59・11)、『壮烈新選組』(60・7)、『お坊主天狗』(62・11)、『御金蔵破り』(64・8)、『大勝負』(65・5)の7本。大体、1―2年に1本の割合で製作されていますが、年代が下がるにつれて共演する割合が高くなっています。
橋蔵さんの映画年間最多出演数は57年の15本ですが、映画が斜陽化するにつれて出演数は減りはじめ、63年7本、64年8本と10本を割り込み、65年はわずか5本で、最盛期の半分から3分の1に減少しています。ひとりのスターでは客がよべなくなったこともあり、対照的な個性の橋蔵さんと千恵蔵さんの共演作品が増えたということなのでしょう。
逆にアイドル時代、共演の多かった市川右太衛門さんとは59年10月の『天下の伊賀越 暁の決戦』が最後で、その後、一緒に出なくなったのは、橋蔵さんを「旗本退屈男」の後継にとの話が持ち上がったほど、2人のキャラクターが似ていたことが起因していたように思われます。
千恵蔵さんそっくりの閻魔さま
対立する兄弟分を演じる新田の常吉の天王寺虎之助さんと虎五郎の多々良純さん。多々良さんは『用心棒市場』では凄みをきかした悪党ぶりでしたが、今回は花之丞に操られてのていたらく。憎めない悪党ぶりを披露しています。
関八州のヤクザたちが籠もる閻魔堂。ギョロリと睨む閻魔さまの目が千恵蔵さんそっくりで思わず笑ってしまいます。
天下のご政道を正す「大勝負」はモグラこと蛸十郎とらっきょこと仙太郎の活躍で決着を見るのです。知恵と力の対決でもありました。
KBS京都テレビの「邦画指定席」で、中島監督が語られたように、『大勝負』のような明るく健全な娯楽時代劇は65年を境に製作されなくなりました。
その後、限られた層を対象とし、東映映画は一段と特化されていきました。任侠ものやエロものがかかる東映専属館は若い女性にとって、口に出すのも憚れる、行きにくい場所となってしまったのです。
(文責・古狸奈 2012・11・18)
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